たった1人で演劇創りを始める方法

劇団に所属せず、周りに仲間もいない状態から、自分だけの演劇作品を上演するまで

公演の予算を組む その1

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年が明けてもうだいぶ経ってしまいましたが、新年おめでとうございます。

劇作家・演出家の息吹肇です。

昨年から始まりましたこのブログですが、今年も続けていきますので、どうぞ宜しくお願い致します。

 

1つご報告です。

今月26日〜31日に予定していた僕の演劇ユニット・Favorite Banana Indiansの第14回本公演は、1都3県への緊急事態宣言の発出、および現下の感染者数の状況に鑑み、お客様、出演者、スタッフの安全を第一に考え、中止することになりました。

苦渋の決断でしたが、大変残念です。

 

さて、気を取り直して、昨年末までにこのブログを7回書いてきましたが、漸く実際の作業の細かい話に入る段階にきました。今回からは、「予算を組む」というテーマで書いていきたいと思います。

 

予算の項目

「たった1人で演劇を創る」がテーマですので、いきなりメジャーな大劇場で、有名な俳優さんに出演してもらって…というのは、いくら何でも非現実的です。まずは、手の届く範囲内の規模で始めることをお勧めします。

まずは、演劇公演を行うためには、どんな費目のお金が必要になるのかを考えていきましょう。

ざっと挙げると、以下のようなものになります。

 

・劇場費

・出演者へのギャランティ

・スタッフへのギャランティ

・稽古場代

・運送費

・物販グッズ製作費

・その他

 

以下、一つずつ見ていきましょう。

 

 劇場費

作品を上演するための場所(大抵は劇場)を借りるお金です。一口に小劇場といってもピンからキリまであります。キャパや立地に応じて1日の費用が違いますし、何日借りるかによっても違ってきます。

劇場のキャパや借りる日数によって、公演の収入の柱であるチケット収入が違ってきます。これは予算全体に大きな影響を与えますから、慎重に検討した方がいいでしょう。例えば、キャパ60の劇場を5日間借りて、そのうちの3日間で5ステやるとすれば、全て売れたとして、のべ300人を動員できます。そこに、チケット単価をかけた数字が、チケット売上の見込み額になります。

ただし、余程のことがない限り、初回の公演で全ステージ完売というわけにはいきません。一般的には、総キャパの6割の動員で予算を立てるべきだとされています。上記の例では、300人の6割、すなわち180人の動員で成り立つような予算組をする必要があるということです。

この時、チケットの料金も決めます。客単価が高くなれば、予算規模を大きくすることができますが、やはり「相場」というものがあります。現在の小劇場の相場は、3,000〜3,500円というあたりでしょうか。仮に3,000円に設定すると、チケット収入は54万前後と見ることができます。

肝心の劇場費ですが、キャパ60〜80位の規模ですと、週末を含めて5日間借りたとして、平日3日と土日2日ですから、概ね25、6万〜30万前後です。劇場によっては機材費が別になっているところもありますし、電気料金を実費で支払うところもあります。仮に25万の劇場を借りると、劇場費が収入全体に占める比率は約46%となり、結構高めとなります。因みに、飲食店の家賃が売上に占める比率は7〜10%だそうです。

また、劇場費の支払い方にも注意しましょう。最初に契約金を10万位支払ったら、残りは公演最終日までに支払えばよいという劇場もあれば、契約金を支払った後、使用の6ヶ月前までに30%、3ヶ月前までに20%、残金を公演終了日(またはその前日)までに支払うという、分割型の劇場もあります。この場合は、チケット収入が入る前に、ある程度まとまったお金を劇場に支払う必要がありますので、資金繰りに注意して下さい。

 

※現在、新型コロナの影響で、多くの劇場でキャパを半数まで減らした状態での上演を求められています。キャパ100の劇場を借りても、実際には1回に50人しか入れられないということが起きます。一方で、劇場費は半額にはなりません。その点も考慮して、劇場を決めて下さい。

 

 

出演者へのギャランティ

出演する役者さん達へのギャランティも発生します。大きく分けて、3通りの方式があります。

 

①チケットノルマ方式

いきなりですが、これは逆に役者からお金を払ってもらうパターンです。例えば「ノルマ20枚」ならば、1枚3,000円のチケットを役者が20枚自腹で買い取り、自分で販売する方式です。売れた枚数が20枚に満たなかった場合は、役者が不足分を補填します。以前はこの方式が主流でした。

主催者側からすれば、収入がある程度確実に入るので有り難いですが、役者の側から見れば、「お金を払って出演する=働いたのにお金をとられる」ことになり、理不尽であるとして今はあまり見られなくなりました。後述するチケットバックやギャラと組み合わせている団体さんはあります。

 

②チケットバック方式

役者が売ったチケットの枚数に応じて、一定額を役者に戻す=バックする方式です。「1枚目から1,000円バック」といえば、20枚売った役者には20,000円がバックされます。この場合、チケットが3,000円だったとしても、役者へのバック分を除いた2,000円で売っていることと同じになります。

売った分だけ戻ってくるので、役者の満足度はそれなりに高いです。枚数によってバックの金額を変えるのも、役者のモチベーションを上げるのに役立ちます。(その分、主催者側の手元に残る金額は減ります。)

 

③ステージギャラ方式

芸能事務所系の役者のほぼ全員が、この方式をとっています。売った枚数に関係なく、1ステージいくらでギャラを計算し、支払うものです。最近は、フリーの役者でもこの方式を要求してくる人が結構います。

1ステいくらにするのかは、交渉によって決まることが殆どですが、多くはこれまでの実績で金額を決めています。その人がどの程度のポジションにいて、どの位集客できるかにもよりますが、小劇場の場合は、概ね5,000円〜10,000円、少し大きな事務所だと20,000円〜40,000円が相場です。

主催者側で注意しなくてはならないのは、その役者がギャラを払った分、ちゃんと集客してくれているかという点です。例えば、チケットが3,000円でギャラを1ステ10,000円払っている場合、1ステ4枚売ってくれれば元が取れたことになります。逆に、3枚以下だと主催者側の持ち出しになります。

その役者に魅力と実力があり、作品世界を構成するのになくてはならない存在だといった場合には、足が出てもステージギャラ方式の役者を使うことはあり得ます。また、一概にはいえませんが、一般的な傾向として、ステージギャラ方式の役者の方が、チケットバック方式の役者よりも、責任感が強く、意識も高いので、そういう人が座組に数人入っただけでも、作品のクオリティは上がります。

 

以上の3通りを組み合わせた支払い方もありますし、座組の中でも人によって方式を変えることもできますので、総予算とも相談の上、どれが最も適した払い方か検討しましょう。

なお、役者に支払うものは、上記の他に、ブロマイドやチェキ等の物販を行った場合のロイヤリティがあります。これは、売上の一定の割合を役者にバックするものです。これも交渉によって決めます。人によって、また事務所によって割合は異なります。

物販も大切な収入源ですが、それは主催者側も役者も同じですので、お互いが納得できる数字を探りましょう。

 

 

如何でしたでしょうか。

 

補足ですが、劇場を決める時は、キャパや金額も大切ですが、ロケーションや実際の空間がどんなものかも、同じくらい、いえ、それ以上に大切です。Webサイトを見て候補を決めたら、劇場さんに連絡を取り、見学に行って現地を自分の目で確かめることをお勧めします。見学は無料ですし、劇場さんも喜んで案内してくれるでしょう。

 

まだ項目は残っていますが、長くなりましたので、次回以降に続きます。

脚本作りの実際

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みなさんこんにちは。劇作家・演出家の息吹肇です。

間もなく2020年も終わります。みなさんにとって今年はどんな年でしたか?

コロナ、コロナで明け暮れた1年だったのではないでしょうか。

 

僕自身も、コロナの影響もあって、特に前半から中盤は殆ど活動らしい活動はできませんでした。2月に朗読イベントをやってから、緊急事態宣言が出て、劇場やライブハウスは閉められてしまいました。夏以降、徐々に再開したものの、客席数は限られ、マスクやフェイスシールドを着用しての観劇が当たり前になりました。オンライン演劇という新たなジャンルも生まれつつあります。

そんな中、このブログが始まったわけですが、今回で2020年は最後になります。締め括りに相応しいかどうか分かりませんが、前回書いた、「条件に合わせて脚本を書く」ということの実例をご紹介しましょう。

 

 

2015年11月上演「True Love 〜愛玩人形のうた〜」の場合

物語の大枠を作る

僕の脚本に「True Love 〜愛玩人形のうた〜」という作品があります。これは、myria☆☆(ミリア)というロックバンドさんと、ライブハウスでコラボレーション公演を行うためのテキストでした。具体的には、演劇の物語の中に歌が入り、その歌をバンドさんが演奏する、つまり、芝居パートと演奏パートが交互に出てくるという構成です。

このバンドさんの曲の中に「Machine -Android №9-」という曲があり、その曲を使用することに決まっていたので、僕はこの曲の歌詞から物語を作りました。まさに、アンドロイドが主役のSFです。曲調がどこか不穏な空気を漂わせるものでしたし、そもそもmyria☆☆さんの曲の多くは影のない突き抜けた明るさではなく、どこか憂いや悲しみを感じさせるものが多かったので、物語自体も明るいものではなく、主役のアンドロイドが悲劇に向かっていく展開にしました。

 

登場人物を決める

バンドさんとのコラボレーションということは、当然劇場ではなく、ライブハウスで上演ということになります。前にも書いたように、ライブハウスのステージは、アンプやドラム等が所狭しと並べられています。そして、演奏するバンドのメンバーは、ずっとステージに居続けます。そうなると、アクティングエリア(役者が演技で使う場所)は極端に狭くならざるを得ません。

このことを考慮して、登場人物の数を決めました。「True Love 〜愛玩人形のうた〜」の登場人物は、男2人、女3人の5人です。(その他に、アンサンブルが数名います。)さらに、できるだけステージ上にいる人間を減らすため、一部のシーンを除いて、2人または3人のシーンで構成。さらに、芝居の前半と後半で、主人公を除いて登場人物が入れ替わる構成にして、少人数でも展開に変化を出すことができるようにしました。

 

動きの少ない会話劇

アクティングエリアが狭いということは、大きな動きはできないということです。1つのシーンに登場する人物の数を最小にするとともに、ダンスやアクションといった特殊な動きや、スペースを広く使う動きはできないという大前提のもとに、シーンの内容を決めなければなりません。「True Love 〜愛玩人形のうた〜」では、クライマックスシーンでアクションのようなものがありますが、それも1対1で、短いものにおさめました。

その他のシーンは、ほぼ登場人物同士の普通の会話で構成されています。1人あたりの台詞量が増えることになりますが、その分1人1人の人物を深く書き込むことができます。

また、セットが組めないため、「屋内」のシーンが中心になりました。そうなると、シチュエーション的にも会話劇にならざるを得ません。

 

トータル90分の上演時間

前にも書きましたが、ライブハウスの椅子は長時間の観劇には適していません。その上、ホールレンタルで借りられるのは、長くて2日。殆どは1日です。その時間の中で公演を行うのですから、多くて2ステです。しかし、上演時間が2時間位の芝居を2回やるには、時間が足りないのが実際のところです。なので、いつもよりも上演時間を短くする必要があります。加えて、上演時間の中には、バンドさんの演奏時間も含まれます。

「True Love 〜愛玩人形のうた〜」は、演劇パートが約1時間、演奏パートが6曲で約30分を想定してシーン構成をしました。要は、1時間の一幕ものを書くつもりで臨んだのです。ただ、演奏パートは、音楽が変わると長くなったり短くなったりします。5年前の上演では、演奏パートが約40分位になっていました。

それでも、通常の演劇公演よりは短時間で収まりましたので、乗り打ち(小屋入り当日に本番を行うこと)で1日2回公演を実現しました。

 

採算は取れるのか?

出演者が5人の作品ですので、1人が20人お客様を呼んだとしても、100人にしかなりません。チケット料金をドリンク代抜きで3,000円に設定すると、チケット収入は30万になります。あとはバンドさんがどの位呼べるかと、主催者側のお客様がどの位になるかです。

ライブハウスでの公演のデメリットは、日にちが限られることです。大抵は1dayなので、例えば前日は空いているけれど、その日に別の予定が入っているというお客様は、当然ですが来ることができません。こうして集客の機会を逃してしまった人数は馬鹿になりません。

前に書きましたが、ライブハウスの箱代は、ロック系の箱の場合は、小劇場5日分位に相当します。そうなると、チケット収入のかなりの部分は箱代に消えます。出演者やバンドさんへのバックや、衣裳・小道具製作費、広告宣伝費、稽古場代等は結局持ち出しになってしまいました。

スペースやストーリーの短さを考えると、大人数の脚本を書くのは無理ですが、採算面を考えると、登場人物は1人でも多い方がいい。

このジレンマを解消することができませんでしたので、5年前に行った上演以降、僕はライブハウスでのバンドさんとのコラボ公演は行っていません。うまくやれば、非常にアグレッシブな企画なので、何とか採算面の問題をクリアできる方法はないか考えているところです。

 

劇場で上演する

最初に書いたように、「True Love 〜愛玩人形のうた〜」という作品は、ライブハウスでの上演を前提にしたものです。しかし、生演奏にこだわらなければ、劇場で「音楽劇」という形での上演が可能なのではないかと考えました。

実際、この作品の初演(2012年9月)は、ユニットの本公演として劇場で上演されました。劇場での上演に際して、大きく変更した点はありません。ただ、実際に主人公が歌を歌うことになるので、歌える役者をキャスティングする必要があります。

劇場で上演する前提で書かれてはいませんが、スケールが広がるということですので、ライブハウスではできなかったことが、いろいろできるようになります。照明や音響の効果はもとより、簡単なセットを組むこともできます。

また、公演期間が何日もとれますので、ステージ数も多くできます。出演者が少ないという問題は、ダブルキャストという形態を取ることで、ある程度改善できます。(それでも、採算を取ろうとすると、かなりの集客力のある役者をキャスティングしなければなりません。)

そして、この作品の最大の特徴は、曲を指定していないということです。曲が入る箇所は脚本上に指定がありますが、どんな曲を使うかは上演時に任意に決定できます。ありものの曲を当てはめるのもよし、オリジナルの曲を製作するのもよし。曲によって、同じ物語なのに受ける印象が全く違います。そこがこの作品の面白いところです。

 

 

如何でしたか。ライブハウスで上演するための脚本を、どのように構想したのかを簡単にご紹介しました。「True Love 〜愛玩人形のうた〜」は僕の作品の中では人気が高いレパートリーですが、もし様々な制約がなければ、逆に思い付かなかったかも知れません。

ライブハウスでの上演に限らず、劇場での上演であっても、人数・場所・予算etc.演劇公演には様々な制約がつきものです。それらをクリアするにはどうすればいいのかを考えながら、脚本の構想を練ってみて下さい。最初は非常に不自由に感じられると思いますが、限られた範囲で最大限できることを模索しつつ構成をしていくと、思いがけずいいアイディアが湧いてきたり、閃きがあったりするものです。

逆に、あまりにも自由に想像の翼を広げて書いてしまうと、実現しようとする段になって様々な壁にぶつかり、妥協の結果チープなものになってしまうこともよくあります。

制約に基づいて書くということは、現実を見ながら創造(妄想)するということです。このバランスがうまく取れるようになれば、面白い作品を生み出すことができるようになるでしょう。

 

なお、この「True Love 〜愛玩人形のうた〜」という作品は、来年(2021年)1月26日〜31日にコフレリオ新宿シアターという劇場で、僕の演出で上演されます。ご興味のある方は、下記のサイトをチェックしてみて下さい。

 

https://fbi-stage.wixsite.com/truelove2021

 

そして、チケットをご予約いただけますと、大変嬉しく思います。

どうぞ宜しくお願い致します。

 

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最初に書きましたように、今回が2020年最後の更新となります。

来る2021年が、皆様にとって実りあるよい年になりますように。

そして、たった1人で演劇を創ることを目標にしている人達が、少しでもその目標に近付くことができ、また達成することができますように。

どうぞよいお年をお迎え下さい。

このブログは、2021年も続きます。今後ともどうぞ宜しくお願い致します。

脚本を書く(用意する)時に注意することは?

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皆さんこんにちは。劇作家・演出家の息吹肇です。

早いもので、もうすぐ2020年も終わりです。今年はコロナで明け暮れた年でしたね。本当に芝居がやりにくい1年だったと思います。

そんな中でも、夏以降、無観客配信も含めて多くの団体が演劇活動を再開しました。まだ観客数の制限やマスク・フェイスシールドの着用といった制限はあるものの、何とか緊急事態制限前並みの活動に戻りつつあると思います。

このブログも今回で6回目になりました。何回シリーズと決まっているわけではないのですが、ぼちぼち実際の上演に向けた作業を具体的に紹介していく段階に入ったと思いますので、今回は、まず最初に何をしたらいいのかをお伝えしたいと思います。

 

 脚本を用意する

当たり前のことですが、インプロ等の特殊な場合を除いて、演劇を上演するには脚本が必要です。あなたが脚本家であれば、自分で書きたいものを書けばいいわけです。

しかし、ここで早くもプロデューサーとしての頭を働かせなければなりません。

 

登場人物を何人位にするか?

上演時間を何分位にするか?

ジャンルはどうするのか?(時代劇か、現代劇か、SFか、ファンタジーか、コメディかetc.)

 

以下、順番に解説していきます。

 

登場人物の人数

小劇場であれば、登場人物の数は集客に直結します。あなたがまだ無名であれば、集客は出演者に頼らざるを得ないのが現実です。そして、小劇場の役者の集客力は、残念ながらあまり高くはありません。30人呼べたらかなり多い方だと思って下さい。

もし登場人物10人の脚本だったら、役者が呼べるのはトータルで200人前後です。これは、小劇場の公演だと3ステか4ステ分にしかなりません。チケット単価にもよりますが、これでは赤字になるのは目に見えています。

では、20人以上の脚本にしたらどうでしょうか。集客の問題はだいぶ改善します(正直、これでもきついですが)。しかし、別の問題が生じます。すなわち、その役者をどうやって集めるかです。あなたがこれまでも芸能に携わったり、(小)劇場で活動してきたりした実績があれば、何らかの人脈があると思います。しかし、それでも20人集めるのは大変です。ましてや、本当に初めて演劇界に足を踏み入れるという人であれば、人脈はなきに等しいでしょう。オーディションをかけるとなっても、知名度がなければ、余程魅力的な作品を書かない限り、応募してくる人数は限られます。

 

上演時間

商業演劇では、途中休憩を挟んで3時間以上といった舞台も珍しくありません。

しかし、小劇場では、まず「途中に休憩を入れる」という文化がありません。(稀にそういう劇もありますが。)休憩無しで見られるのは、最長でも2時間と考えた方がいいでしょう。

僕の創る芝居は2時間を少し出てしまうことが多く、稽古場で台詞やシーンをカットして、何とか2時間に収めるようにしています。(それでも2、3分出てしまうこともしばしばです。)

小劇場の椅子はパイプ椅子等の、長時間座っているのに適さないものであることが多いため、観劇環境も考えると、90分〜110分程度に収めるのがお客様に優しいと言えるでしょう。

また、上演時間が長いということは、それだけ脚本のシーン数が多いということです。その分稽古時間がかかるため、ある程度長めに稽古期間を取る必要があります。それだけ役者を拘束することになりますし、稽古場を借りるお金の問題にもなります。

かといって、80分を切る位になると、お客様からチケット代に見合わない長さという受け取られ方をされる可能性もあります。満足度が低ければ、次回はもう見にきていただけないかも知れません。このあたりのバランスをよく考えて、長さを決めて下さい。

 

どんなジャンルにするのか

あなたが劇作家であれば、ご自身の得意分野というのがあるでしょう。基本的には、自分の得意分野で思いっきり自分の世界を構築すればいいのです。

ただ、ここでも考えなければならないことがあります。

例えば、時代劇をやろうとすると、衣裳は当然その時代に合わせたものでなければおかしいので、それを用意することになります。あなたに衣裳を作るスキルがなければ、衣裳の専門スタッフに外注になります。または、衣裳を貸す業者から借りることになります。登場人物全員分を揃えるとなれば、それなりの出費は覚悟しなければなりません。場合によっては、カツラも必要になるでしょう。

また、派手なチャンバラをやろうと思えば、殺陣師さんに手をつけてもらう必要があります。ここでも手間と出費が発生します。

ファンタジーの場合も同様です。世界観を統一して見せるための特殊な衣裳はどうしても必要になるのです。

現代劇でも、例えばシチュエーションコメディで場面が動かないということになると、何らかのセットを組むことになると思いますが、セットの規模やどの程度リアルさを求めるかによっては、やはり手間とお金がかかってきます。

その他、劇中に映像を入れるとか、劇中で歌を歌うといった設定にすると、それぞれにスタッフワークとギャランティーが発生します。

 

 

如何でしたか。

脚本の構想を練る段階から、以上のようなことを頭に入れておいた方がいいでしょう。あまりにも現実的に考えすぎると、創造性に乏しい作品しかできなくなるという危惧もありますが、逆に想像力の翼を広げすぎてしまうと、いざそれを具体化しようとした時の、作業量と出費が半端でなくなります。

いろいろやりたいことがあるのは分かりますが、まず第1回目は、自分の手に負える範囲を考えて、作品をまとめることを優先した方が、後々破綻する危険性が少なくなります。

勿論、前に書いたように、あなたの周りにもう何人かの仲間が集まっている状態なら、その人達と相談しながら進めることで、より凝ったことができる可能性は高いです。

 

まずは手堅く、自分の能力と財力と相談しながら脚本を準備する。

 

一から創作する脚本について書いてきましたが、これは既成の脚本を上演する時でも同じことです。どんな脚本なら上演できて、どんな脚本は無理なのか。好き嫌いを一端脇に置いて、冷静に判断して下さい。

 

脚本は、上演されて初めて意味があるもの。「舞台の設計図」です。

 

いきなり1人で高層ビルを建てようと思っても難しいですから、小さくても多くの人から愛されるような、また自分でも納得できるような家を作って下さい。

いろいろな限界がある中で、如何に自分のやりたいことを入れ込むかを試行錯誤することは、あなたの作家・プロデューサーとしての力を高めることにも繋がるのです。

 

次回は、できあがった(選んだ)脚本に基づき、企画書を書くことについて書きたいと思います。

ライブハウスで演劇を上演する

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皆さん、こんにちは。脚本家・演出家の息吹肇です。

ご無沙汰してしまいましたが、この間、僕は俳優でシンガーソングライターでもある西村守正さん主催の「ゆめいろらいぶ」という小さなライブイベントに、自作品を引っさげて参加していました。諸般の事情により、11月29日(日)と12月5日(土)という2連続での参加になりましたが、29日は30分の3人芝居、5日は30分の朗読劇(2人)という、全く別の作品を上演しました。

30分程度の作品なら、出演者が舞台の初心者でない限り、稽古を3回もやれば何とか形にすることができます。このブログのテーマである「たった1人で演劇を創る」ためのテストケースになり得ます。

そこで、今回は、少しだけ脇道に逸れますが、「ライブハウスで演劇を上演する」ことについて考えてみましょう。

 

 

ライブハウスを使う

ライブイベントとは、文字通り主にライブハウスで行われるイベントのことです。ライブハウスというと、バンドさんやアーティストさん、アイドルさんなどが音楽を演奏したり歌ったりする、まさに「ライブ」を行う場所というイメージが強いでしょう。しかし、実際には音楽以外の「実演芸術」、すなわち演劇や朗読劇等の催し物も行われています。そして、ライブハウス側も、様々なジャンルの人達に使ってもらうことで、箱の知名度を上げたいと思っています。

ですから、音楽と関係なくても構いません。こちらがきちんと企画書を作成して提示すれば、箱の人達も受け入れてくれるでしょう。

 

 

ライブハウスを使うメリット その1 安価で借りられる

ライブハウスは、「ブッキング」と「ホールレンタル」の2つの借り方があります。自分でイベントを行う場合はホールレンタルになりますが、アコースティック系の楽器しか演奏できない箱と、エレキやドラムも演奏できる箱とでは、レンタル料がかなり違います。朗読や演劇で借りる場合は、それ程大きな音を立てるわけではありませんので、アコースティック系の箱で問題ありません。
アコースティック系の箱であれば、レンタル料は、昼・夜両方借りても、小さめの小劇場の1日分の料金とさほど変わりはありません。(逆に、エレキもOKの箱では、1日レンタルして小劇場の5日分位の値段になってしまう場合もあります。)ライブのホールレンタルは、昼または夜、もしくは1日貸しですので、比較的リーズナブルな予算で公演やイベントを行うことができます。

 

 

ライブハウスを使うメリット その2 スタッフさんがついてくる

ライブハウスを借りるイベントで何よりいいのは、料金にスタッフ費が含まれていることです。箱付きのスタッフさんが、受付や音響・照明のスタッフワークをこなしてくれますので、スタッフを探す手間も省けます。これは初めて演劇公演(イベント)を手がける上では、大きなアドバンテージといえるでしょう。

当然スタッフさんは箱のことを熟知していますので、安心してお任せができます。こちらの要望を聞いて、どこまでができて、どこからは難しいのかといった判断もしてくれます。特に初めてイベントや公演を主催するといった場合は、心強いです。

 

 

ライブハウスを使うデメリット その1 できることに限界がある

箱にもよるのですが、ライブハウスは元々は音楽イベントを行う場所です。ステージには、アンプや返しのスピーカー等の機材が、所狭しと並んでいます。ですから、建て込み(大道具を作って建てること)や幕を吊るといった、ステージに変更を加えることは、原則はできません。

また、照明の灯体数も色味も(場所によってピンキリですが)限られています。通常の劇場での公演のように、演目に合わせて照明を吊り直したり、色を変更したりといったことも、ほぼ行われません。また、楽屋から直接ステージにアクセスできない箱もあります。そういう場合は、演者は頻繁に出はけができないことになります。

以上のようなことから、通常の演劇公演と同じような動きや照明効果を期待するのは難しいと考えた方がいいでしょう。長い演目や登場人物が多い作品、リアルなセットを組む必要がある作品等の上演には向きません。

 

 

ライブハウスを使うデメリット その2  ステージ数が限られる

先に書いたように、ライブハウスでの公演やイベントは、1日か、長くても2日です。当然、ステージ数も限られます。昼・夜借りても、1日にできるのは、リハの時間を削っても、多くて2ステです。コロナ禍の現在では、客席数を減らしている箱が殆どですので、1回に収容できるお客様の数は限られます。それは、必然的に売上が少なくなることに繋がるのです。

演劇興行の主な収入源はチケットの売上ですから、物販ができないと、箱代が出ない=赤字になる可能性が高くなります。

加えて、箱によっては「ドリンク保証」という制度があります。これは、例えば「ドリンク保証100杯」なら、最低でも100人のお客様が入らなければ、不足した分は主催者がドリンク代を支払うという仕組みです。2回やっても100人収容できない客席数しか設定できなければ、こちらも自腹を切ることになります。

当然ですが、客席数を減らしても箱代は変わりませんので、足が出る覚悟は必要です。

 

 

ライブハウスを使うデメリット その3  スタッフさんが演劇に不慣れな場合あり

先にも書いたように、ライブハウスは基本的には「音楽イベント」のためのスペースです。そのため、スタッフさんもそれに特化した技術を身に付けています。

当然のことながら、演劇の照明と音楽ライブの照明はセオリーが違います。勿論、演劇の照明に対応はしてくれますが、芝居畑の照明さんのように、かゆいところに手が届くような「芝居心のある明かり」の操作を求めても、なかなか難しい場合があります。そもそもライブの明かりは、殆ど「即興」で作られていて、その感性にはいつもうならされますが、演劇のように「決め事」の明かりの操作はまた違った技術が求められます。音も同じです。
こちらがやっていただきたいことを、噛み砕いて丁寧に説明することが必要です。

日頃から朗読劇等が多く開催されているような箱であれば、このような心配はあまりしなくても大丈夫です。

 

 

 

如何でしたでしょうか。

「ライブハウスで演劇をやる」というと「そんなことができるのか?」と思う人もいるでしょう。実際には、結構あちこちのライブハウスで朗読劇や小さな(短くて少人数の)芝居が上演されています。例えば、新中野にある「Waniz Hall」は、ライブハウス自体が2人芝居シリーズを主催しています。

僕のユニット・Favorite Banana Indiansも、過去にはWaniz Hallをはじめ、何カ所かのライブハウスで公演を行っています。

最初から劇場での本格的な演劇公演をやるのは敷居が高いと思っている人や、あまり元手をかけず、お試しでちょっとした公演をやってみたい人には、ライブハウスは有力な選択肢になります。確かに足が出る可能性は高いですが、小規模の箱なら、赤字の額も目の玉が飛び出るほどの金額にはなりません。ただ、ライブハウスの座席は、長時間の観劇に耐えうるものではないので、演目を決める時にその点は注意した方がいいと思います。

 

最初から全部自前で公演(イベント)を行うのは難しいという人は、既成のライブイベントに朗読劇等で参加させてもらうという手段もあります。

 

ライブイベントやライブハウスでの公演は、自由度は低いものの、比較的手軽に企画し、実行することができます。

 

この方式も、是非検討してみて下さい。

 

次回は、劇場公演を前提とした演劇の創り方のお話に戻ります。

自分のやりたいことをはっきりさせて、「仲間」や「理解者」を見つけよう

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みなさん、こんにちは。

脚本家・演出家・ライターの息吹肇です。

前回、前々回の記事はお読みいただきましたでしょうか。

「メリット」を取り上げた記事より、「デメリット」を取り上げた記事の方が、アクセス数は格段に少なかったです。デメリットに関しては「そんなこと、言われる前にとっくに知ってるよ」ということだったのでしょうか。それとも「そんなネガティブな記事は読みたくない。希望が欲しい」ということだったのでしょうか。はたまた、メリットに関する記事を読んでいただいて、「よし、自分はもう1人でやっていける。これ以上このブログを読まなくてもいい」となったのでしょうか。

いずれにしても、前回の最後にも書きましたが、バランス感覚と、自分を客観的に見る視点を持つことは必要です。

その上で、たった1人で演劇を作るには、具体的には何が大切になってくるのか、これから書いていきたいと思います。

そうです、やっとこれからが本編なのです。

 

 

作・演出ができなくても大丈夫

そもそもこれを読んでいるあなたは、何故王道である劇団ではなく、1人で演劇を創ることを選ぼうとしているのでしょうか。

きっとそれは、このブログの第1回目でも少し書いたように、

 

誰よりも、面白いと思うこと(企画・脚本等)を持っていて、それをそのまま表現したい=お客様にお見せしたい

 

という思いを強く持っているからでしょう。

それとも、何人かの人間関係が濃密な団体では居心地が悪い、でも演劇は創りたいというジレンマがあるからでしょうか。

 

ところで、あなたが演劇においてできることは何でしょうか?

演じること?

脚本を書くこと?

演出すること?

衣裳を作ること?

プロデューサー?

あなたは、あなたの持っているスキルを使って、あなたにしか創れない芝居を創る。それが、「たった1人で演劇を創る」ということです。

多くの1人演劇ユニットは、作・演出の人がやっています。(僕もそうです。)では、脚本が書けなければ、演出ができなければ、1人で演劇を創ることは無理なのでしょうか?

いえいえ、そんなことはありません。

僕の知っている人で、脚本家でも演出家でも俳優でも他のスタッフでもなく、たった1人で演劇を創り上げた人がいます。なんとその人は、観劇が趣味の人、つまり、「お客様」なのです。芝居好きが高じて、自前の資金で演劇制作会社を立ち上げ、自分が好きな漫画の舞台化、そう、今流行の2.5次元の舞台を制作するまでになったのです。これを書いている時点では、間もなく実際に上演されることになっています。

この人にあったのは、1つは「資金力」ですが、それ以上に大きいのは「何としても自分が見たい演劇を、自分の力で創り上げたい」という強い意志です。その力に突き動かされて行動した結果、脚本家・演出家・俳優・スタッフが集まり、まさに目的に辿り着こうとしています。

作・演出ができれば、確かに自分の思い描いた世界を直接的に表現できます。しかし、もしそれができなくても、やりたいことやコンセプトさえしっかり持っていれば、それに合う脚本家や演出家を探して来ればいいのです。今の人の例は若干特殊ですが、例えば俳優1人のユニット、演出家1人のユニット等も存在します。演劇を創るのに足りない力は、外から呼んでくればいいのです。

 

 

「仲間」や「理解者」を見つける

たった1人で演劇を創る場合にも、客観的な視点が大事だと書きました。また、先述の通り、自分の足りないところは、他から人を見つけてくる必要があります。

普通に「お仕事」としてギャラを貰い、動いてくれる人も勿論大切です。

ただ、よりベターなのは、「お仕事」の範囲を超えて、あなたを支えてくれる「仲間」や「理解者」がそばにいることです。必ずしもユニットのメンバーでなくても構いません。

あなたがやっていることに共感し、共鳴し、全面的に一緒にはやれないけれど、様々な部分でサポートをしてくれる。それも、「ギャラ」という対価以上の範囲で力を貸してくれる。そんな人がいれば、最終的な方向性の決定や責任を取るのは代表であるあなたであっても、本当に独りぽっちの時よりも、物理的にも精神的にもずっと楽になります。

「メンバー」という形式や身分にこだわらなければ、気軽に力を貸してくれる人は意外と周りに集まってくるものです。

ただし、それには、あなた自身や、あなたの活動や作品に、人を惹き付ける何らかの魅力があることが必要です。また、それを発信していく力やツールが不可欠になります。

 

 

SNSやブログを活用する

今の時代には当たり前のことですが、自分の活動や作品、考え方等を広く発信するツールは、何といってもSNSでしょう。TwitterFacebook、画像・映像が得意ならインスタやTikTokは大きな武器になります。

しかし、世の中はあらゆる情報で溢れています。まだ知名度のない人であれば、Twitterのフォロワーを獲得するのも一苦労です。スルーされてしまう投稿や書き込みの方が多いと考えた方がいいでしょう。それでも根気強く発信していると、アンテナに引っかけてくれる人は必ず出てきます。ハッシュタグによる検索や、グーグルの検索に引っかかるような投稿やブログの記事を書ければ、意外に早いペースでフォロワーが増えたりもします。

実際に公演をやることになれば、出演者やスタッフもSNSをやっている確率は高いので、その人達と相互フォローし合うことで、繋がりが広がっていくのです。

大切なのは、ここでも以下のことです。

 

自分は何がしたいのか、何をしようとしているのか、コンセプトや方向性をしっかり持つ

 

それを他人にはっきりと分かりやすくプレゼンできる

 

これらがしっかりできていれば、それに興味を持つ人や、方向性が同じ人が繋がってくれます。

もしフォロワーができたら、いえ、必ずしも相手が自分をフォローしていなくてもいいのですが、その中から「この人に力になってもらいたい」と思える人に、自分からコンタクトをとってみましょう。これだけたくさんの人がSNSを使っているのですから、全員から無視されることの方が、むしろ考えにくいでしょう。

そして、そういう人達の中から、「仲間」や「理解者」が現れるのです。

 

先に書いた、観客からたった1人で演劇の創り手になった人の場合は、自分が見に行った複数の芝居のチラシに書かれていた1人の演劇プロデューサー(女性)に目を止め、SNSで連絡を取って繋がりました。そして、その女性が実際の公演のための自分の人脈(出演者・スタッフ)を使って、1つの芝居を創りあげたのです。

「所詮自分はお客だから」「業界のことは何も分からないから」と手をこまねいていたら、絶対に得られなかった結果です。

その女性プロデューサーは「仕事」としてこの話を受けて動いたのですが、それでも「ビジネスパートナー」であることに変わりはありません。この2人は既に何作かの舞台を共同で創っています。つまり、そのお客だった人は、演劇を創る「仲間」を獲得したことになるのです。

 

僕にも、SNSを通じて知り合った「理解者」の人達がいます。

その人達がいなければ、今の僕の活動はなかったでしょう。このブログの第1回目を読んでいただくと、それが分かると思います。諸事情で今は離れてしまった人もいますが、そういう人達にも僕は心から感謝しています。

 

 

如何でしたか。

メリット・デメリットを踏まえて、それでも1人で演劇創りをやってみようと思ったら、

 

自分に何がどこまでできるのかを見極める

 

「仲間」や「理解者」を見つけるために、SNS等を使って自分から動く

 

この2つがまずは必要です。

能動的に動くことで、流れを引き寄せることができますし、思いもかけないような人と繋がることもできます。

最初は勇気がいるかも知れませんが、自分を信じて動いてみましょう。

言い古されたことですが、チャンスには前髪しかないのですから。

 

次回からは、さらに具体的に、1人でやる場合の演劇創りの手順や方法をお伝えしていこうと思います。

たった1人で演劇を創ることのデメリットとは?

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みなさん、こんにちは。

このブログも3回目になりました。三日坊主とか三日天下とか、3という数字はあまりいい意味で使われません。このブログも尻すぼみにならないように、4回、5回、10回、20回…と続けていけるように書いていきたいと思います。

 

前回は、たった1人で演劇を創ることのメリットをご紹介しました。1人は大変で苦労ばかりと思われているかも知れないのですが、1人ならではの利点も確かにあって、だから僕を含めて1人演劇ユニットというのが結構あるのです。

しかし、物事には表があれば裏がある。いいことずくめのわけはありません。もしそうなら、劇団という劇団はとっくに壊滅していることでしょう。

劇団(集団)であることのメリットもたくさんあって、それを裏返すと1人ユニットのデメリットになります。今回は、それについて、目を背けずに書いていきます。

 

 

デメリットその1 独りよがりになりやすい

前回、1人のメリットで「意志決定が早い」「自分の思い通りにできる」と書きました。その裏返しがこれです。つまり、客観的に物事を判断してくれる人がいないのです。1人ユニットは、自分が面白いと思ったことを思いっ切りやれるのがいいのですが、果たしてそれが他の(多くの)人にとっても面白いものなのかと、立ち止まって考えるのがなかなか難しいのです。

何かを思い付いて動き出した段階で、気が付かないうちに視野がどんどん狭くなっていきます。何しろ、異論を唱える人がいないわけですから、知らず知らずのうちに、その人の趣味・嗜好・思想を観客に押し付ける結果になることもしばしばです。

特に、1人で脚本・演出・主演をやるユニットに、この傾向が強いです。「脚本・演出・主演」を1人で兼ねたら、それはもう無敵です。座組の誰も、少なくとも根本的な部分では異論を挟めなくなります。結果、独りよがりの表現に陥ってしまうのです。本人が誰よりも気持ちよくなってしまっていると、始末に負えません。それはもう「表現」ではありません。マスターベーションと同じです。

それは、そのユニットの代表のファンにとってはたまらない時間でも、それ以外のお客様にとっては、別の意味でたまらない時間になります。

劇団は、複数の劇団員がいて、企画段階でも、稽古場でも様々な視点から意見を出してくれます。主宰や代表の色が濃く出る傾向があるとはいえ、多様性が確保されるのが劇団です。劇団の色でさえ、劇団員が意見を戦わせ、すり合わせて決まっていく側面もあります。

1人の場合はそれができません。余程注意しないと、視野狭窄に陥り、同じようなテイストの作品を繰り返し作ってしまい、飽きられたり忌避されたりする危険性があるのです。

 

 

デメリットその2  雑用も全て1人でやる

演劇活動には、他の活動と同じで多数の「雑用」があります。劇団には劇団員がいますので、劇団員の間で役割分担をすることができます。人によって作業量が偏ることはありますが、取り敢えず「手」があるというのは大きいです。

1人ユニットの場合は、当然雑用も全部自分がやるしかありません。器用な人ならいいのですが、僕のように複数のことを並行して進めるのがあまり得意ではない人間は、とても苦労します。

芝居をやろうとすれば、まずは劇場を押さえ、脚本を書き、役者さんにコンタクトを取り、オーディションを行い、スタッフさんを押さえ、稽古場を押さえ、宣伝美術のための写真撮影があれば撮影用スタジオを押さえ、ダンスがあればダンス稽古用のスタジオを押さえ、殺陣があれば殺陣稽古用の稽古場を押さえ、生歌があれば歌練用のスタジオを押さえ、出演者のスケジュール調整をして稽古シーンを決め…、ととにかくやることが湯水のように湧いてきます。演出助手がいれば、ある程度分担することができるのですが、いない場合は、主宰をやりながら作・演出をやり、雑務や渉外の仕事もやります。

これを言ったら「看板に偽りあり」になってしまいますが、そもそも、演劇はたった1人だけでは創れません。役者さん・スタッフさんがいて初めて成立するのです。一人芝居であっても、スタッフさんがいなければ芝居の体をなさないでしょう。なので、大抵の場合、出演者の中で力のある人が、見るに見かねてお手伝いをしてくれます。いつも申し訳ないなと思いながらも、その人達の善意に甘えさせてもらっています。でないと、何も前に進まないからです。

それでもやっぱり主体は代表ですから、最終的には全てのことが1人の代表にのしかかってきます。睡眠時間が削られるのはお約束です。それでも、倒れてしまっては全てが止まってしまうので、辛いところを無理をしてでも動くことになります。

自分の手となり足となって「無償で」動いてくれる人、作品に対して滅私奉公してくれる人が、基本いない。それが1人ユニットの実態なのです。

 

 

デメリットその3 役者・スタッフワークは(ほぼ)全て外注

一人芝居でない限り、登場人物の数だけ役者が必要です。劇団なら劇団員がいますが、たった1人のユニットの場合は、当然ですが外部から役者さんを探して呼んでくる必要があります。

また、劇団の場合、例えば衣裳・小道具は劇団員が作るという所は結構あります。そうすると、衣裳・小道具に関して外部スタッフさんを雇う必要がなくなります。勿論、劇団員にその分のギャラは出ません。ですので、衣裳も小道具もかかるのは実費だけです。大道具の立て込みの時にも、劇団員がいれば、舞台監督さんの指揮の下に普通に道具を持ってたたきます。ばらしの時も同じです。受付も、劇団員だけでやろうと思えばできてしまいます。勿論、劇団員の人件費はかかりません。

これがたった1人のユニットだと、できることに限界があります。例えば美術ができたり、衣裳や小道具が作れたりすれば、その分は外注しなくてもいいかも知れませんが、忙しくはなります。仕込みやばらしは、1人で手伝っても絶対に無理で、応援の人を呼んでもらうしかありません。受付も1人で回すのは無理です。

外部のスタッフさんを頼めば、当然外注費(ギャラ)が発生します。(役者も同じです。)いくつものスタッフワークを掛け持ちできる代表ならある程度いいのでしょうが、僕の場合は、脚本と演出しか能がないので、その他の全スタッフワークは外注になります。仕方ないことですが、打合せ等で時間を取られますし、こちらの意図通りのクオリティにならないことも、ごく希にはあります。

 

 

デメリットその4 お財布は1つ

実はこれが、デメリットの中で一番大きいのではないかと思っています。

劇団の場合、いろいろなシステムを取っている劇団がありますが、例えば「団費」という形で毎月何某かのお金を劇団員から徴収してプールしておくといったところもあります。

また、普段は何も徴収されなくても、公演になると劇団員にチケットノルマを課すところは多いです。例えばチケット料金が3,500円でノルマが30枚だとすると、劇団員1人につき105,000円は確実に劇団に入ります。もしその劇団員が20人しかお客様を呼べなかったとしても、残りの10人分は自腹になるわけです。

たった1人のユニットの場合、先に書いたスタッフさんへのギャラの他に、キャストさんにも何らかのバックまたはギャラが発生します。今の例でいえば、役者が30人呼んだとして、1枚目から1,000円バックするとなると、こちらの手元に残るチケット収入は75,000円に減ります。この30,000円の差は大きいです。事務所に所属する役者の場合、多くは1ステージいくらというギャラの方式になりますので、ユニット側の負担はさらに増えます。

最悪、足が出るのです。

そして、最終的に赤字になった場合、それを負担するのはユニットの代表ただ1人ということになります。劇団員のように、負担を分かち合う人がいないのです。

これは、正直かなりきついです。

僕は、活動の初期には会社員として働いていましたが、公演で赤が出た時は、ボーナスで補填していました。

最終的に赤字ではなかったとしても、演劇公演を行う場合には、稽古場を借りる費用やチラシを制作して印刷する費用、衣裳や小道具の実費等、事前の出費がかなりあります。

演劇活動の収入源は、チケットの売上と物販の売上に限られますので、特に1人でやる場合は、それを補う副収入を得る手段を確保しておくことが必須となります。

 

 

如何でしたか。

メリットよりデメリットの項目の方が多い結果になりました。

勿論、細かくいえば、もっと様々な問題があります。

何でも自分の思い通りになると思うと、人は様々な面で暴走しがちです。趣味に走り、予算も青天井。結局、1人で楽しみながら、苦しむことになります。

巻き込まれてしまった役者さんやスタッフさん、そしてお客様はいい面の皮です。

そうならないようにするにはどうすればいいのか。

難しいですが、

 

「バランス感覚」と「自分を客観的に見つめる視点」を持つこと

 

これが、たった1人で演劇を創る上では大変重要です。

 

前回書いた「メリット」と今回の「デメリット」を比較・検討して、自分は本当に1人で演劇を創ることに向いているのか、それとも仲間を募って劇団を旗揚げした方がいいのか、ご自身で判断していただきたいと思います。

 

「そんな難しいことができるか自信がないけど、とにかく1人でやってみたい」

そう思った人もきっといると思います。

何事もチャレンジ精神が大切です。

次回以降はさらに具体的に、たった1人で演劇を創るためのヒントになることを書いていきたいと思います。

たった1人で演劇を創ることのメリットとは?

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みなさんこんにちは。息吹肇です。

前回の記事はお読みいただけましたでしょうか。

何故僕が「演劇ユニット」という、劇団ではない形態で演劇活動を行っているのかがお分かりいただけたかと思います。ただ、演劇ユニットは1人である必要はありません。事実、代表(主宰)と数名の役者やスタッフが所属し、公演の度に外部から客演を呼んでいるユニットもあります。

僕の演劇ユニットFavorite Banana Indiansも、実は他にメンバーが1名または2名いた時期もありました。それが、様々な事情から抜けて、現状は1人になったのです。1人の演劇ユニットというのは、実は結構存在しています。中には、「自分はたった1人で、苦労しながら頑張っているんだ!」と声高に訴えることで、支持(同情?)を得ようとする人もいるのですが、1人で頑張っている人はそれ程珍しくはありません。それに、不可抗力でそうなったとしても、それは結局その人個人が選択したことです。(勿論、その人を応援するのは自由です。)

確かに1人で演劇をやろうとすると、いろいろな苦労をすることになります。けれども、楽しさややり甲斐も大きいのです。

 

ブログ2回目の今回は、たった1人で演劇を創ることのメリットをお伝えしましょう。

 

 

メリットその1 意志決定が早い(フットワークが軽い)

通常、劇団には意志決定機関として「劇団会議」というものがあります。これは、劇団員全員が集まり、今後の活動計画等を決めていくものです。叩き台は劇団の代表(主宰)や執行部が作るのでしょう。それを全員参加の会議でもんで、最終的な意志決定がなされます。

これが演劇ユニット、それもたった1人のユニットだったら、まさに「即断即決」です。案を考えるのも自分なら、それにGOを出すなり、修正を加えるなり、待ったをかけたりするのも自分。つまり、自分1人の中で全てが完結してしまうのです!公演を打つ時期、その規模、演目、キャスティング、本番までのスケジュール、稽古場の場所、予算組み等々、全て自分1人で考え、決断します。そして、すぐに動き始めることができるのです。

また、何か不測の事態が起きた時や、予想外の問題が持ち上がった時、劇団ならば方向転換のための意思統一のプロセスを踏む必要があります。しかし、自分が代表なら、その必要も基本的にはありません。すぐに方向転換をするなり、正面突破を図るなり、自分1人の意思で動けます。

自分のペースで、自分の思い描いた通りに物事を動かすことができるのが、1人で演劇を創る最大のメリットといえるでしょう。

 

 

メリットその2 自分の企画が確実に通る

劇団によって違いはあると思いますが、例えば新人の劇団員(または研究生など)が、次の公演の時期や演目を提案することは、まずできないのではないかと思います。もしできたとしても、もっと古株の劇団員や、最終的には代表(主宰)の意見が通るのが普通です。「若手公演」や研究生の自主公演のようなものでなければ、経験の浅い劇団員の企画で公演を打つことは難しいでしょう。

しかし、先に書いたこととも重なりますが、たった1人の演劇ユニットなら、自分の企画を立案できれば、それを確実に実行に移すことができます。自分の企画を実現させるためのプロセスを考えることや、俳優さん、スタッフさんの人選や交渉も自分1人でやらなくてはなりませんが、途中でどこかから横槍が入るということもありません。全責任は自分で取らなくてはなりませんが、劇団のような団体ではとれないリスクをとった企画や、奇抜すぎたり尖りすぎて誰も採用しないような企画でも、自分で何とかする覚悟さえできれば、実行に移すことができます。

分かりやすい例は、ユニット名を決めることでしょうか。

劇団では、会議を開いて団員から案を募り、多数決または代表の意思で決定します。自分が望んでいた劇団名になる保証はありません。どんなにダサいと感じる名前でも、劇団会議で決まってしまえば、それに従うしかありません。

1人ユニットの場合は、案を考えるのは大変ですが、自分1人の意思で、自分の好きな名前をつけて活動することができるのです。

 

メリットその3 人間関係に過度に時間と労力を割かなくてよい

劇作家で演出家の鴻上尚史氏は、ご自身も劇団の主宰をなさっていた経験から、劇団の代表は、劇団の人間関係に80%の労力を割かれると仰っていました。本来は、作品作りに100%とはいかないまでも、それこそ80%の時間と労力を割きたいところです。しかし、現実は全く逆です。

劇団は、同じ人間と月単位・年単位で顔を合わせ続け、芝居作りという共同作業をし続けます。当然、人間関係は濃くなります。その結果、様々な軋轢や行き違いが生まれます。これはどんな組織でも同じでしょう。人間関係がぎくしゃくしてしまうと、物事もうまく進みません。時には、作品の出来(クオリティ・完成度)にまで悪影響を及ぼします。代表(主宰)の大切な役目は、そういった人間関係の調整です。これはもの凄く神経を使いますし、間違いなく消耗します。

たった1人のユニットの場合、稽古中や公演期間中は、やはり固定メンバーとなります。当然同じ問題は生まれます。ただ、1人ユニットのいいところは、公演が終われば、そのメンバーとは基本的には二度と顔を合わせないことです。つまり、毎回人間関係がリセットされていきます。お互い「合わないな」と思っても、大人ならば「まあいっか、この芝居が終わるまでだ」「これは仕事なんだ」と自分を納得させ、我慢して、何とかやり過ごすことができます。

若干人間関係がビジネスライクになりますが、大切なことは皆が仲良しになることではなく(勿論、そうなったら最高なのですが)、作品が完成すること、舞台が成功することなのです。そのために注ぐエネルギーをより増やすことができる。誰にとっても、こんなに幸せなことはないと思うのです。

 

 

如何でしたか。細かい点を挙げれば、まだまだメリットはありますが、

 

1人であることの身軽さ。

 

自分の意見が(基本)100%通る。

 

まとめると、この2つに集約されるといえるでしょう。

意志が強く、自他共に認める「一匹狼」だという自覚があるのなら、無理して仲間を探すよりも、1人で計画を立てて実行する方式を選ぶ方が、より確実に目標に近付けると思います。

 

勿論、たった1人で演劇を創ることを選べば、バラ色の日々だけが待っているわけではありません。

次回は、デメリット、注意しなければならない点についてお伝えしたいと思います。