たった1人で演劇創りを始める方法

劇団に所属せず、周りに仲間もいない状態から、自分だけの演劇作品を上演するまで

ライブハウスで演劇を上演する

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皆さん、こんにちは。脚本家・演出家の息吹肇です。

ご無沙汰してしまいましたが、この間、僕は俳優でシンガーソングライターでもある西村守正さん主催の「ゆめいろらいぶ」という小さなライブイベントに、自作品を引っさげて参加していました。諸般の事情により、11月29日(日)と12月5日(土)という2連続での参加になりましたが、29日は30分の3人芝居、5日は30分の朗読劇(2人)という、全く別の作品を上演しました。

30分程度の作品なら、出演者が舞台の初心者でない限り、稽古を3回もやれば何とか形にすることができます。このブログのテーマである「たった1人で演劇を創る」ためのテストケースになり得ます。

そこで、今回は、少しだけ脇道に逸れますが、「ライブハウスで演劇を上演する」ことについて考えてみましょう。

 

 

ライブハウスを使う

ライブイベントとは、文字通り主にライブハウスで行われるイベントのことです。ライブハウスというと、バンドさんやアーティストさん、アイドルさんなどが音楽を演奏したり歌ったりする、まさに「ライブ」を行う場所というイメージが強いでしょう。しかし、実際には音楽以外の「実演芸術」、すなわち演劇や朗読劇等の催し物も行われています。そして、ライブハウス側も、様々なジャンルの人達に使ってもらうことで、箱の知名度を上げたいと思っています。

ですから、音楽と関係なくても構いません。こちらがきちんと企画書を作成して提示すれば、箱の人達も受け入れてくれるでしょう。

 

 

ライブハウスを使うメリット その1 安価で借りられる

ライブハウスは、「ブッキング」と「ホールレンタル」の2つの借り方があります。自分でイベントを行う場合はホールレンタルになりますが、アコースティック系の楽器しか演奏できない箱と、エレキやドラムも演奏できる箱とでは、レンタル料がかなり違います。朗読や演劇で借りる場合は、それ程大きな音を立てるわけではありませんので、アコースティック系の箱で問題ありません。
アコースティック系の箱であれば、レンタル料は、昼・夜両方借りても、小さめの小劇場の1日分の料金とさほど変わりはありません。(逆に、エレキもOKの箱では、1日レンタルして小劇場の5日分位の値段になってしまう場合もあります。)ライブのホールレンタルは、昼または夜、もしくは1日貸しですので、比較的リーズナブルな予算で公演やイベントを行うことができます。

 

 

ライブハウスを使うメリット その2 スタッフさんがついてくる

ライブハウスを借りるイベントで何よりいいのは、料金にスタッフ費が含まれていることです。箱付きのスタッフさんが、受付や音響・照明のスタッフワークをこなしてくれますので、スタッフを探す手間も省けます。これは初めて演劇公演(イベント)を手がける上では、大きなアドバンテージといえるでしょう。

当然スタッフさんは箱のことを熟知していますので、安心してお任せができます。こちらの要望を聞いて、どこまでができて、どこからは難しいのかといった判断もしてくれます。特に初めてイベントや公演を主催するといった場合は、心強いです。

 

 

ライブハウスを使うデメリット その1 できることに限界がある

箱にもよるのですが、ライブハウスは元々は音楽イベントを行う場所です。ステージには、アンプや返しのスピーカー等の機材が、所狭しと並んでいます。ですから、建て込み(大道具を作って建てること)や幕を吊るといった、ステージに変更を加えることは、原則はできません。

また、照明の灯体数も色味も(場所によってピンキリですが)限られています。通常の劇場での公演のように、演目に合わせて照明を吊り直したり、色を変更したりといったことも、ほぼ行われません。また、楽屋から直接ステージにアクセスできない箱もあります。そういう場合は、演者は頻繁に出はけができないことになります。

以上のようなことから、通常の演劇公演と同じような動きや照明効果を期待するのは難しいと考えた方がいいでしょう。長い演目や登場人物が多い作品、リアルなセットを組む必要がある作品等の上演には向きません。

 

 

ライブハウスを使うデメリット その2  ステージ数が限られる

先に書いたように、ライブハウスでの公演やイベントは、1日か、長くても2日です。当然、ステージ数も限られます。昼・夜借りても、1日にできるのは、リハの時間を削っても、多くて2ステです。コロナ禍の現在では、客席数を減らしている箱が殆どですので、1回に収容できるお客様の数は限られます。それは、必然的に売上が少なくなることに繋がるのです。

演劇興行の主な収入源はチケットの売上ですから、物販ができないと、箱代が出ない=赤字になる可能性が高くなります。

加えて、箱によっては「ドリンク保証」という制度があります。これは、例えば「ドリンク保証100杯」なら、最低でも100人のお客様が入らなければ、不足した分は主催者がドリンク代を支払うという仕組みです。2回やっても100人収容できない客席数しか設定できなければ、こちらも自腹を切ることになります。

当然ですが、客席数を減らしても箱代は変わりませんので、足が出る覚悟は必要です。

 

 

ライブハウスを使うデメリット その3  スタッフさんが演劇に不慣れな場合あり

先にも書いたように、ライブハウスは基本的には「音楽イベント」のためのスペースです。そのため、スタッフさんもそれに特化した技術を身に付けています。

当然のことながら、演劇の照明と音楽ライブの照明はセオリーが違います。勿論、演劇の照明に対応はしてくれますが、芝居畑の照明さんのように、かゆいところに手が届くような「芝居心のある明かり」の操作を求めても、なかなか難しい場合があります。そもそもライブの明かりは、殆ど「即興」で作られていて、その感性にはいつもうならされますが、演劇のように「決め事」の明かりの操作はまた違った技術が求められます。音も同じです。
こちらがやっていただきたいことを、噛み砕いて丁寧に説明することが必要です。

日頃から朗読劇等が多く開催されているような箱であれば、このような心配はあまりしなくても大丈夫です。

 

 

 

如何でしたでしょうか。

「ライブハウスで演劇をやる」というと「そんなことができるのか?」と思う人もいるでしょう。実際には、結構あちこちのライブハウスで朗読劇や小さな(短くて少人数の)芝居が上演されています。例えば、新中野にある「Waniz Hall」は、ライブハウス自体が2人芝居シリーズを主催しています。

僕のユニット・Favorite Banana Indiansも、過去にはWaniz Hallをはじめ、何カ所かのライブハウスで公演を行っています。

最初から劇場での本格的な演劇公演をやるのは敷居が高いと思っている人や、あまり元手をかけず、お試しでちょっとした公演をやってみたい人には、ライブハウスは有力な選択肢になります。確かに足が出る可能性は高いですが、小規模の箱なら、赤字の額も目の玉が飛び出るほどの金額にはなりません。ただ、ライブハウスの座席は、長時間の観劇に耐えうるものではないので、演目を決める時にその点は注意した方がいいと思います。

 

最初から全部自前で公演(イベント)を行うのは難しいという人は、既成のライブイベントに朗読劇等で参加させてもらうという手段もあります。

 

ライブイベントやライブハウスでの公演は、自由度は低いものの、比較的手軽に企画し、実行することができます。

 

この方式も、是非検討してみて下さい。

 

次回は、劇場公演を前提とした演劇の創り方のお話に戻ります。