たった1人で演劇創りを始める方法

劇団に所属せず、周りに仲間もいない状態から、自分だけの演劇作品を上演するまで

脚本を書く(用意する)時に注意することは?

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皆さんこんにちは。劇作家・演出家の息吹肇です。

早いもので、もうすぐ2020年も終わりです。今年はコロナで明け暮れた年でしたね。本当に芝居がやりにくい1年だったと思います。

そんな中でも、夏以降、無観客配信も含めて多くの団体が演劇活動を再開しました。まだ観客数の制限やマスク・フェイスシールドの着用といった制限はあるものの、何とか緊急事態制限前並みの活動に戻りつつあると思います。

このブログも今回で6回目になりました。何回シリーズと決まっているわけではないのですが、ぼちぼち実際の上演に向けた作業を具体的に紹介していく段階に入ったと思いますので、今回は、まず最初に何をしたらいいのかをお伝えしたいと思います。

 

 脚本を用意する

当たり前のことですが、インプロ等の特殊な場合を除いて、演劇を上演するには脚本が必要です。あなたが脚本家であれば、自分で書きたいものを書けばいいわけです。

しかし、ここで早くもプロデューサーとしての頭を働かせなければなりません。

 

登場人物を何人位にするか?

上演時間を何分位にするか?

ジャンルはどうするのか?(時代劇か、現代劇か、SFか、ファンタジーか、コメディかetc.)

 

以下、順番に解説していきます。

 

登場人物の人数

小劇場であれば、登場人物の数は集客に直結します。あなたがまだ無名であれば、集客は出演者に頼らざるを得ないのが現実です。そして、小劇場の役者の集客力は、残念ながらあまり高くはありません。30人呼べたらかなり多い方だと思って下さい。

もし登場人物10人の脚本だったら、役者が呼べるのはトータルで200人前後です。これは、小劇場の公演だと3ステか4ステ分にしかなりません。チケット単価にもよりますが、これでは赤字になるのは目に見えています。

では、20人以上の脚本にしたらどうでしょうか。集客の問題はだいぶ改善します(正直、これでもきついですが)。しかし、別の問題が生じます。すなわち、その役者をどうやって集めるかです。あなたがこれまでも芸能に携わったり、(小)劇場で活動してきたりした実績があれば、何らかの人脈があると思います。しかし、それでも20人集めるのは大変です。ましてや、本当に初めて演劇界に足を踏み入れるという人であれば、人脈はなきに等しいでしょう。オーディションをかけるとなっても、知名度がなければ、余程魅力的な作品を書かない限り、応募してくる人数は限られます。

 

上演時間

商業演劇では、途中休憩を挟んで3時間以上といった舞台も珍しくありません。

しかし、小劇場では、まず「途中に休憩を入れる」という文化がありません。(稀にそういう劇もありますが。)休憩無しで見られるのは、最長でも2時間と考えた方がいいでしょう。

僕の創る芝居は2時間を少し出てしまうことが多く、稽古場で台詞やシーンをカットして、何とか2時間に収めるようにしています。(それでも2、3分出てしまうこともしばしばです。)

小劇場の椅子はパイプ椅子等の、長時間座っているのに適さないものであることが多いため、観劇環境も考えると、90分〜110分程度に収めるのがお客様に優しいと言えるでしょう。

また、上演時間が長いということは、それだけ脚本のシーン数が多いということです。その分稽古時間がかかるため、ある程度長めに稽古期間を取る必要があります。それだけ役者を拘束することになりますし、稽古場を借りるお金の問題にもなります。

かといって、80分を切る位になると、お客様からチケット代に見合わない長さという受け取られ方をされる可能性もあります。満足度が低ければ、次回はもう見にきていただけないかも知れません。このあたりのバランスをよく考えて、長さを決めて下さい。

 

どんなジャンルにするのか

あなたが劇作家であれば、ご自身の得意分野というのがあるでしょう。基本的には、自分の得意分野で思いっきり自分の世界を構築すればいいのです。

ただ、ここでも考えなければならないことがあります。

例えば、時代劇をやろうとすると、衣裳は当然その時代に合わせたものでなければおかしいので、それを用意することになります。あなたに衣裳を作るスキルがなければ、衣裳の専門スタッフに外注になります。または、衣裳を貸す業者から借りることになります。登場人物全員分を揃えるとなれば、それなりの出費は覚悟しなければなりません。場合によっては、カツラも必要になるでしょう。

また、派手なチャンバラをやろうと思えば、殺陣師さんに手をつけてもらう必要があります。ここでも手間と出費が発生します。

ファンタジーの場合も同様です。世界観を統一して見せるための特殊な衣裳はどうしても必要になるのです。

現代劇でも、例えばシチュエーションコメディで場面が動かないということになると、何らかのセットを組むことになると思いますが、セットの規模やどの程度リアルさを求めるかによっては、やはり手間とお金がかかってきます。

その他、劇中に映像を入れるとか、劇中で歌を歌うといった設定にすると、それぞれにスタッフワークとギャランティーが発生します。

 

 

如何でしたか。

脚本の構想を練る段階から、以上のようなことを頭に入れておいた方がいいでしょう。あまりにも現実的に考えすぎると、創造性に乏しい作品しかできなくなるという危惧もありますが、逆に想像力の翼を広げすぎてしまうと、いざそれを具体化しようとした時の、作業量と出費が半端でなくなります。

いろいろやりたいことがあるのは分かりますが、まず第1回目は、自分の手に負える範囲を考えて、作品をまとめることを優先した方が、後々破綻する危険性が少なくなります。

勿論、前に書いたように、あなたの周りにもう何人かの仲間が集まっている状態なら、その人達と相談しながら進めることで、より凝ったことができる可能性は高いです。

 

まずは手堅く、自分の能力と財力と相談しながら脚本を準備する。

 

一から創作する脚本について書いてきましたが、これは既成の脚本を上演する時でも同じことです。どんな脚本なら上演できて、どんな脚本は無理なのか。好き嫌いを一端脇に置いて、冷静に判断して下さい。

 

脚本は、上演されて初めて意味があるもの。「舞台の設計図」です。

 

いきなり1人で高層ビルを建てようと思っても難しいですから、小さくても多くの人から愛されるような、また自分でも納得できるような家を作って下さい。

いろいろな限界がある中で、如何に自分のやりたいことを入れ込むかを試行錯誤することは、あなたの作家・プロデューサーとしての力を高めることにも繋がるのです。

 

次回は、できあがった(選んだ)脚本に基づき、企画書を書くことについて書きたいと思います。