たった1人で演劇創りを始める方法

劇団に所属せず、周りに仲間もいない状態から、自分だけの演劇作品を上演するまで

脚本作りの実際

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みなさんこんにちは。劇作家・演出家の息吹肇です。

間もなく2020年も終わります。みなさんにとって今年はどんな年でしたか?

コロナ、コロナで明け暮れた1年だったのではないでしょうか。

 

僕自身も、コロナの影響もあって、特に前半から中盤は殆ど活動らしい活動はできませんでした。2月に朗読イベントをやってから、緊急事態宣言が出て、劇場やライブハウスは閉められてしまいました。夏以降、徐々に再開したものの、客席数は限られ、マスクやフェイスシールドを着用しての観劇が当たり前になりました。オンライン演劇という新たなジャンルも生まれつつあります。

そんな中、このブログが始まったわけですが、今回で2020年は最後になります。締め括りに相応しいかどうか分かりませんが、前回書いた、「条件に合わせて脚本を書く」ということの実例をご紹介しましょう。

 

 

2015年11月上演「True Love 〜愛玩人形のうた〜」の場合

物語の大枠を作る

僕の脚本に「True Love 〜愛玩人形のうた〜」という作品があります。これは、myria☆☆(ミリア)というロックバンドさんと、ライブハウスでコラボレーション公演を行うためのテキストでした。具体的には、演劇の物語の中に歌が入り、その歌をバンドさんが演奏する、つまり、芝居パートと演奏パートが交互に出てくるという構成です。

このバンドさんの曲の中に「Machine -Android №9-」という曲があり、その曲を使用することに決まっていたので、僕はこの曲の歌詞から物語を作りました。まさに、アンドロイドが主役のSFです。曲調がどこか不穏な空気を漂わせるものでしたし、そもそもmyria☆☆さんの曲の多くは影のない突き抜けた明るさではなく、どこか憂いや悲しみを感じさせるものが多かったので、物語自体も明るいものではなく、主役のアンドロイドが悲劇に向かっていく展開にしました。

 

登場人物を決める

バンドさんとのコラボレーションということは、当然劇場ではなく、ライブハウスで上演ということになります。前にも書いたように、ライブハウスのステージは、アンプやドラム等が所狭しと並べられています。そして、演奏するバンドのメンバーは、ずっとステージに居続けます。そうなると、アクティングエリア(役者が演技で使う場所)は極端に狭くならざるを得ません。

このことを考慮して、登場人物の数を決めました。「True Love 〜愛玩人形のうた〜」の登場人物は、男2人、女3人の5人です。(その他に、アンサンブルが数名います。)さらに、できるだけステージ上にいる人間を減らすため、一部のシーンを除いて、2人または3人のシーンで構成。さらに、芝居の前半と後半で、主人公を除いて登場人物が入れ替わる構成にして、少人数でも展開に変化を出すことができるようにしました。

 

動きの少ない会話劇

アクティングエリアが狭いということは、大きな動きはできないということです。1つのシーンに登場する人物の数を最小にするとともに、ダンスやアクションといった特殊な動きや、スペースを広く使う動きはできないという大前提のもとに、シーンの内容を決めなければなりません。「True Love 〜愛玩人形のうた〜」では、クライマックスシーンでアクションのようなものがありますが、それも1対1で、短いものにおさめました。

その他のシーンは、ほぼ登場人物同士の普通の会話で構成されています。1人あたりの台詞量が増えることになりますが、その分1人1人の人物を深く書き込むことができます。

また、セットが組めないため、「屋内」のシーンが中心になりました。そうなると、シチュエーション的にも会話劇にならざるを得ません。

 

トータル90分の上演時間

前にも書きましたが、ライブハウスの椅子は長時間の観劇には適していません。その上、ホールレンタルで借りられるのは、長くて2日。殆どは1日です。その時間の中で公演を行うのですから、多くて2ステです。しかし、上演時間が2時間位の芝居を2回やるには、時間が足りないのが実際のところです。なので、いつもよりも上演時間を短くする必要があります。加えて、上演時間の中には、バンドさんの演奏時間も含まれます。

「True Love 〜愛玩人形のうた〜」は、演劇パートが約1時間、演奏パートが6曲で約30分を想定してシーン構成をしました。要は、1時間の一幕ものを書くつもりで臨んだのです。ただ、演奏パートは、音楽が変わると長くなったり短くなったりします。5年前の上演では、演奏パートが約40分位になっていました。

それでも、通常の演劇公演よりは短時間で収まりましたので、乗り打ち(小屋入り当日に本番を行うこと)で1日2回公演を実現しました。

 

採算は取れるのか?

出演者が5人の作品ですので、1人が20人お客様を呼んだとしても、100人にしかなりません。チケット料金をドリンク代抜きで3,000円に設定すると、チケット収入は30万になります。あとはバンドさんがどの位呼べるかと、主催者側のお客様がどの位になるかです。

ライブハウスでの公演のデメリットは、日にちが限られることです。大抵は1dayなので、例えば前日は空いているけれど、その日に別の予定が入っているというお客様は、当然ですが来ることができません。こうして集客の機会を逃してしまった人数は馬鹿になりません。

前に書きましたが、ライブハウスの箱代は、ロック系の箱の場合は、小劇場5日分位に相当します。そうなると、チケット収入のかなりの部分は箱代に消えます。出演者やバンドさんへのバックや、衣裳・小道具製作費、広告宣伝費、稽古場代等は結局持ち出しになってしまいました。

スペースやストーリーの短さを考えると、大人数の脚本を書くのは無理ですが、採算面を考えると、登場人物は1人でも多い方がいい。

このジレンマを解消することができませんでしたので、5年前に行った上演以降、僕はライブハウスでのバンドさんとのコラボ公演は行っていません。うまくやれば、非常にアグレッシブな企画なので、何とか採算面の問題をクリアできる方法はないか考えているところです。

 

劇場で上演する

最初に書いたように、「True Love 〜愛玩人形のうた〜」という作品は、ライブハウスでの上演を前提にしたものです。しかし、生演奏にこだわらなければ、劇場で「音楽劇」という形での上演が可能なのではないかと考えました。

実際、この作品の初演(2012年9月)は、ユニットの本公演として劇場で上演されました。劇場での上演に際して、大きく変更した点はありません。ただ、実際に主人公が歌を歌うことになるので、歌える役者をキャスティングする必要があります。

劇場で上演する前提で書かれてはいませんが、スケールが広がるということですので、ライブハウスではできなかったことが、いろいろできるようになります。照明や音響の効果はもとより、簡単なセットを組むこともできます。

また、公演期間が何日もとれますので、ステージ数も多くできます。出演者が少ないという問題は、ダブルキャストという形態を取ることで、ある程度改善できます。(それでも、採算を取ろうとすると、かなりの集客力のある役者をキャスティングしなければなりません。)

そして、この作品の最大の特徴は、曲を指定していないということです。曲が入る箇所は脚本上に指定がありますが、どんな曲を使うかは上演時に任意に決定できます。ありものの曲を当てはめるのもよし、オリジナルの曲を製作するのもよし。曲によって、同じ物語なのに受ける印象が全く違います。そこがこの作品の面白いところです。

 

 

如何でしたか。ライブハウスで上演するための脚本を、どのように構想したのかを簡単にご紹介しました。「True Love 〜愛玩人形のうた〜」は僕の作品の中では人気が高いレパートリーですが、もし様々な制約がなければ、逆に思い付かなかったかも知れません。

ライブハウスでの上演に限らず、劇場での上演であっても、人数・場所・予算etc.演劇公演には様々な制約がつきものです。それらをクリアするにはどうすればいいのかを考えながら、脚本の構想を練ってみて下さい。最初は非常に不自由に感じられると思いますが、限られた範囲で最大限できることを模索しつつ構成をしていくと、思いがけずいいアイディアが湧いてきたり、閃きがあったりするものです。

逆に、あまりにも自由に想像の翼を広げて書いてしまうと、実現しようとする段になって様々な壁にぶつかり、妥協の結果チープなものになってしまうこともよくあります。

制約に基づいて書くということは、現実を見ながら創造(妄想)するということです。このバランスがうまく取れるようになれば、面白い作品を生み出すことができるようになるでしょう。

 

なお、この「True Love 〜愛玩人形のうた〜」という作品は、来年(2021年)1月26日〜31日にコフレリオ新宿シアターという劇場で、僕の演出で上演されます。ご興味のある方は、下記のサイトをチェックしてみて下さい。

 

https://fbi-stage.wixsite.com/truelove2021

 

そして、チケットをご予約いただけますと、大変嬉しく思います。

どうぞ宜しくお願い致します。

 

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最初に書きましたように、今回が2020年最後の更新となります。

来る2021年が、皆様にとって実りあるよい年になりますように。

そして、たった1人で演劇を創ることを目標にしている人達が、少しでもその目標に近付くことができ、また達成することができますように。

どうぞよいお年をお迎え下さい。

このブログは、2021年も続きます。今後ともどうぞ宜しくお願い致します。