たった1人で演劇創りを始める方法

劇団に所属せず、周りに仲間もいない状態から、自分だけの演劇作品を上演するまで

公演の予算を組む その1

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年が明けてもうだいぶ経ってしまいましたが、新年おめでとうございます。

劇作家・演出家の息吹肇です。

昨年から始まりましたこのブログですが、今年も続けていきますので、どうぞ宜しくお願い致します。

 

1つご報告です。

今月26日〜31日に予定していた僕の演劇ユニット・Favorite Banana Indiansの第14回本公演は、1都3県への緊急事態宣言の発出、および現下の感染者数の状況に鑑み、お客様、出演者、スタッフの安全を第一に考え、中止することになりました。

苦渋の決断でしたが、大変残念です。

 

さて、気を取り直して、昨年末までにこのブログを7回書いてきましたが、漸く実際の作業の細かい話に入る段階にきました。今回からは、「予算を組む」というテーマで書いていきたいと思います。

 

予算の項目

「たった1人で演劇を創る」がテーマですので、いきなりメジャーな大劇場で、有名な俳優さんに出演してもらって…というのは、いくら何でも非現実的です。まずは、手の届く範囲内の規模で始めることをお勧めします。

まずは、演劇公演を行うためには、どんな費目のお金が必要になるのかを考えていきましょう。

ざっと挙げると、以下のようなものになります。

 

・劇場費

・出演者へのギャランティ

・スタッフへのギャランティ

・稽古場代

・運送費

・物販グッズ製作費

・その他

 

以下、一つずつ見ていきましょう。

 

 劇場費

作品を上演するための場所(大抵は劇場)を借りるお金です。一口に小劇場といってもピンからキリまであります。キャパや立地に応じて1日の費用が違いますし、何日借りるかによっても違ってきます。

劇場のキャパや借りる日数によって、公演の収入の柱であるチケット収入が違ってきます。これは予算全体に大きな影響を与えますから、慎重に検討した方がいいでしょう。例えば、キャパ60の劇場を5日間借りて、そのうちの3日間で5ステやるとすれば、全て売れたとして、のべ300人を動員できます。そこに、チケット単価をかけた数字が、チケット売上の見込み額になります。

ただし、余程のことがない限り、初回の公演で全ステージ完売というわけにはいきません。一般的には、総キャパの6割の動員で予算を立てるべきだとされています。上記の例では、300人の6割、すなわち180人の動員で成り立つような予算組をする必要があるということです。

この時、チケットの料金も決めます。客単価が高くなれば、予算規模を大きくすることができますが、やはり「相場」というものがあります。現在の小劇場の相場は、3,000〜3,500円というあたりでしょうか。仮に3,000円に設定すると、チケット収入は54万前後と見ることができます。

肝心の劇場費ですが、キャパ60〜80位の規模ですと、週末を含めて5日間借りたとして、平日3日と土日2日ですから、概ね25、6万〜30万前後です。劇場によっては機材費が別になっているところもありますし、電気料金を実費で支払うところもあります。仮に25万の劇場を借りると、劇場費が収入全体に占める比率は約46%となり、結構高めとなります。因みに、飲食店の家賃が売上に占める比率は7〜10%だそうです。

また、劇場費の支払い方にも注意しましょう。最初に契約金を10万位支払ったら、残りは公演最終日までに支払えばよいという劇場もあれば、契約金を支払った後、使用の6ヶ月前までに30%、3ヶ月前までに20%、残金を公演終了日(またはその前日)までに支払うという、分割型の劇場もあります。この場合は、チケット収入が入る前に、ある程度まとまったお金を劇場に支払う必要がありますので、資金繰りに注意して下さい。

 

※現在、新型コロナの影響で、多くの劇場でキャパを半数まで減らした状態での上演を求められています。キャパ100の劇場を借りても、実際には1回に50人しか入れられないということが起きます。一方で、劇場費は半額にはなりません。その点も考慮して、劇場を決めて下さい。

 

 

出演者へのギャランティ

出演する役者さん達へのギャランティも発生します。大きく分けて、3通りの方式があります。

 

①チケットノルマ方式

いきなりですが、これは逆に役者からお金を払ってもらうパターンです。例えば「ノルマ20枚」ならば、1枚3,000円のチケットを役者が20枚自腹で買い取り、自分で販売する方式です。売れた枚数が20枚に満たなかった場合は、役者が不足分を補填します。以前はこの方式が主流でした。

主催者側からすれば、収入がある程度確実に入るので有り難いですが、役者の側から見れば、「お金を払って出演する=働いたのにお金をとられる」ことになり、理不尽であるとして今はあまり見られなくなりました。後述するチケットバックやギャラと組み合わせている団体さんはあります。

 

②チケットバック方式

役者が売ったチケットの枚数に応じて、一定額を役者に戻す=バックする方式です。「1枚目から1,000円バック」といえば、20枚売った役者には20,000円がバックされます。この場合、チケットが3,000円だったとしても、役者へのバック分を除いた2,000円で売っていることと同じになります。

売った分だけ戻ってくるので、役者の満足度はそれなりに高いです。枚数によってバックの金額を変えるのも、役者のモチベーションを上げるのに役立ちます。(その分、主催者側の手元に残る金額は減ります。)

 

③ステージギャラ方式

芸能事務所系の役者のほぼ全員が、この方式をとっています。売った枚数に関係なく、1ステージいくらでギャラを計算し、支払うものです。最近は、フリーの役者でもこの方式を要求してくる人が結構います。

1ステいくらにするのかは、交渉によって決まることが殆どですが、多くはこれまでの実績で金額を決めています。その人がどの程度のポジションにいて、どの位集客できるかにもよりますが、小劇場の場合は、概ね5,000円〜10,000円、少し大きな事務所だと20,000円〜40,000円が相場です。

主催者側で注意しなくてはならないのは、その役者がギャラを払った分、ちゃんと集客してくれているかという点です。例えば、チケットが3,000円でギャラを1ステ10,000円払っている場合、1ステ4枚売ってくれれば元が取れたことになります。逆に、3枚以下だと主催者側の持ち出しになります。

その役者に魅力と実力があり、作品世界を構成するのになくてはならない存在だといった場合には、足が出てもステージギャラ方式の役者を使うことはあり得ます。また、一概にはいえませんが、一般的な傾向として、ステージギャラ方式の役者の方が、チケットバック方式の役者よりも、責任感が強く、意識も高いので、そういう人が座組に数人入っただけでも、作品のクオリティは上がります。

 

以上の3通りを組み合わせた支払い方もありますし、座組の中でも人によって方式を変えることもできますので、総予算とも相談の上、どれが最も適した払い方か検討しましょう。

なお、役者に支払うものは、上記の他に、ブロマイドやチェキ等の物販を行った場合のロイヤリティがあります。これは、売上の一定の割合を役者にバックするものです。これも交渉によって決めます。人によって、また事務所によって割合は異なります。

物販も大切な収入源ですが、それは主催者側も役者も同じですので、お互いが納得できる数字を探りましょう。

 

 

如何でしたでしょうか。

 

補足ですが、劇場を決める時は、キャパや金額も大切ですが、ロケーションや実際の空間がどんなものかも、同じくらい、いえ、それ以上に大切です。Webサイトを見て候補を決めたら、劇場さんに連絡を取り、見学に行って現地を自分の目で確かめることをお勧めします。見学は無料ですし、劇場さんも喜んで案内してくれるでしょう。

 

まだ項目は残っていますが、長くなりましたので、次回以降に続きます。