たった1人で演劇創りを始める方法

劇団に所属せず、周りに仲間もいない状態から、自分だけの演劇作品を上演するまで

公演の予算を組む その2

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皆さんこんにちは。劇作家・演出家の息吹肇です。

前回から、公演の予算組の実際を書いています。ただ、本当にケースバイケースですので、僕が書いているのはあくまでも一例と捉えて下さい。

今回は、「スタッフさんへのギャランティ「運搬費」についてです。

 

スタッフさんとは?

一口に「スタッフさん」といっても、演劇の場合は実に様々な方が関わっています。ざっと挙げると以下のようになります。

 

・舞台監督

・舞台美術

・照明

・音響

・衣裳

・小道具

・宣伝美術

・スチール撮影

・制作

 

主にはこんなところでしょうか。

ここに、演出助手が加わることもあります。また、作品の内容によっては、ダンスの振付師、殺陣指導、歌唱指導、映像制作、ヘアメイク、そしてDVDを制作する場合は動画撮影も入ります。

これらのスタッフさんの詳しい役割についての記述は割愛します。ご了承下さい。

 

 

相場はあるのか?

スタッフさんのギャランティの相場は、あってないようなものです。それぞれのスタッフさんにそれぞれの考え方があり、仕事への誇りがあり、またキャリアもスキルも違います。拘束期間の長さや、お願いする仕事の内容によっても変動します。

ただ、どのスタッフさんに関しても、ギャラは十万円台の数字になると思っておいた方がいいでしょう。数万円で受けてくれる人は、余程のお人好しか、あなたに入れ込んでいる人、奉仕の精神が高い人でなければ、若手でまだ経験が浅い、勉強中の人くらいです。当然、スキルもそれなりのものになります。

また、ギャラの額によって、できることが違ってきます。例えば照明の場合、劇場にある照明だけではできることが限られるため、灯体を持ち込むことが結構ありますが、そうするとギャラの額が上がります。ギャラを抑えようとすれば、持ち込みはなしになり、イメージしていたような明かりが作れないことも出てきます。採算と表現のどちらに重きを置くかと、どの位予算が割けるかによって、どの程度の照明が作れるかが決まってくるのです。他のスタッフワークに関しても同じことが言えます。

ただ、小劇場でスタッフをやっている方々は、小劇場で公演を打つ人達には基本的にお金がないと分かってくれていますので、法外な値段を吹っかけてくる人はほぼいませんし、交渉には応じてくれます。

 

「舞監」と「制作」はスタッフの要

時々見られるのが、舞台監督(舞監)と制作を劇団員(役者)が兼ねている団体です。上述したスタッフのうち、照明や音響といった専門的な技能を必要とするスタッフは、普通は役者が兼ねることはできません。稀に、専門的な技術を持っている役者もいますが、通常は本番中に役者が照明や音響を操作することはできませんので、こうしたテクニカルスタッフには、専門の人を充てるのが常識です。

ところが、舞監や制作は、側から見るとそれ程専門的な知識が必要には見えません。そこで、これを出演者(役者)に兼任させ、ギャラを抑えようとするのです。しかし、それは大きな間違いです。

舞監さんはただの大道具屋さんではなく、全スタッフを統括する役目を負います。劇場に入る前も、入った後も、全てのスタッフの動きを把握し、タイムスケジュールを立て、舞台を作り上げます。そして本番中も裏に常駐し、各スタッフにキューを出し、転換を手伝ったり、アクシデントが発生した時にそれを処理するための方策を瞬間的に考えて実行したりしなければなりません。仕込みまでならまだしも、小屋入り後を考えると、舞監を役者に兼ねさせるのは酷です。役者には役者の仕事がありますので、小屋に入ったらそれに専念できないと、いい演技ができなくなります。

制作さんも同様です。制作というと、受付の人達を思い浮かべますが、あの人達の多くは「当日制作」と呼ばれる、劇場に入ってからの仕事を担う人達です。本来の制作の役目は、興行としての演劇公演を成り立たせるための、諸々の作業を行うことです。具体的には、票券(チケット)の管理や宣伝・売り方の提案、劇場内の座席の数や配置の決定、そして受付業務(チケットや物販)とお金の管理、フタッフ・キャスト用のケータリングの準備、開場中の客席内の誘導、公演終了後の決算業務等々です。今はCoRichやカルテットオンライン等の無料の票券管理システムがあり、昔よりは楽になったとは思いますが、それでも大きな座組みになれば管理は大変です。当日券の扱いや、変更等にその都度対処し、受付は滞りなく、間違いなく行わなければお客様のその公演に対しての満足度が下がってしまいます。これも、役者に兼ねさせるのは酷です。本来は本番に向けて神経を集中させたい開場時間に、受付業務に携わらなければならない負担感は想像以上です。結果、作品自体のクオリティの低下の原因になります。

逆に言えば、舞監と制作がしっかりした体制を組めれば、役者は安心して自分の仕事に専念でき、公演の成功に繋がります。

小劇場では、舞監のギャラは15万〜20万、制作は20万〜25万位が相場です。両方合わせて40万前後はかなり大きな金額で、ここをカットできれば主催者側としては嬉しいですが、公演の円滑な運営と作品のクオリティに直結するものですから、非常に大切な出費です。ここはケチらない方がいいというのが、僕の経験上強く言いたいところです。

なお、舞台監督と舞台美術を兼ねる方もいらっしゃいます。こういう方は貴重ですし、スタッフ費の節約にもなります。

 

運搬費

舞監さんや美術さんが作ったものや衣裳・小道具等を、小屋入り初日に劇場に搬入するためと、逆に最終日のバラしの後の荷返しのために車両を使います。その費用です。

舞監さんが運送業者に委託する場合もありますし、舞監さんが自ら車を手配する場合もあります。

荷物の量によって、ハイエースなのか、2トントラック(ショートかロングか)なのかを決め、運転手さんも手配します。

業者に委託した場合、大体8万弱位の金額でした。

もしあなたが搬入に使用できる車を持っていて、なおかつ運転もできれば、この部分の支出はカットできますが、それでもガソリン代や駐車場代がかかります。

 

結局赤字?

前回の劇場費のところで計算したチケット収入を思い出して下さい。キャパ60の劇場を5日間借りて5ステやり、その6割の動員だったとして、料金は3,000円の場合のチケット収入は54万前後でした。そして、劇場費を25万に設定すると、残りは29万。つまり、29万の中から、上記のスタッフさん全員のギャラと、運搬費を出さなくてはなりません。そして、支出はこれにとどまらず、稽古場代やグッズ製作費等もあります。

先程書いたように、舞監さんのギャラの相場が15万〜20万ですから、それだけでもうチケット収入を半分以上を使ってしまいます。あとは、動員をどこまで伸ばせるかと、物販でどれだけ頑張れるかにかかってきます。それでも限界がある場合は、スタッフさんのギャラや役者へのバックを減額する必要があります。

しかし、相場を大幅に下回るギャラでは、スタッフさんは普通は仕事を引き受けてはくれません。役者も同様です。まだ役者の方が受け入れてくれる可能性はありますが、モチベーションの低下は避けられません。結果、作品のクオリティの低下に繋がります。

それは、芝居を創ったあなた自身の評価が低くなることに直結します。

チケット単価を上げるのにも限界があります。

結局のところ、不足分は主催者が自腹を切るしかなくなるのです。

 

 

如何でしたでしょうか。芝居を創ろうという意志が揺らいではいませんか?

スタッフさんにお金がかかるのは、もう仕方ないことと割り切って下さい。スタッフさんは全員「プロ」です。その技術を売って生計を立てています。そして、ほぼ全ての劇場が、音響、照明といったテクニカルスタッフがプロであることを、貸す条件にしています。彼等の力を借りなければ、芝居はできません。

 

支出の費目はまだこれでは終わりません。

次回は稽古場代とグッズの製作費等についてみていきましょう。