たった1人で演劇創りを始める方法

劇団に所属せず、周りに仲間もいない状態から、自分だけの演劇作品を上演するまで

公演の予算を組む その3

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皆さんこんにちは。劇作家・演出家の息吹肇です。

コロナの感染がなかなか落ち着きませんが、いかがお過ごしでしょうか。

このブログも、今回で10回目となります。お読みいただき、感謝致します。

今回で「予算を組む」も最後になります。今回は、稽古場代と、物販グッズ製作費です。

 

稽古場代

文字通り、稽古をする場所を借りるお金です。

普通考えるのは、ダンスの稽古などにも使用できるスタジオですが、自治体が運営する公共施設(公民館等)も、安くて使いやすいので、多くの団体が利用します。ただし、こういう場所を借りるには、団体登録をする必要があります。通常は、その市区町村に住んでいる人、及びそこで働いている人がメンバーの一定割合以上いないと登録できません。登録してしまえば、こちらの都合のいい曜日や時間帯が空いている施設を探して予約をし、使用します。

使用料は、自治体によって、また施設によって、部屋の広さによってまちまちですが、間違いなく言えるのは、民間が運営するスタジオよりは、かなり格安だということです。僕が使った中で一番安かったのは、朝、昼、夜間のどの時間帯も600円という施設でした。最寄り駅から遠いということもあるのかも知れませんが、比較的空いていて、施設の方も親切で使いやすかったです。

また、公共施設では、演劇の稽古に使える部屋と使えない部屋があります。ただし、かなり柔軟に運用してくれる施設も結構ありますので、あまり心配しなくても大丈夫です。

民間のスタジオは、広さやロケーションによってだいぶ違いますが、夜間の4時間借りて1万2,000円位のところもあれば、同じだけ借りて2万以上する場所もあります。

変わったところでは、「たなか舞台芸術スタジオ」「みらい館大明」のように、廃校の校舎を利用して、比較的廉価で貸している施設もあります。競争率は高いですが、舞台の仮組みができる等、非常にリーズナブルですので、是非利用してみて下さい。たなかの方は、個人名義でも借りることができます。

稽古の回数は、作品の長さ等にもよりますが、概ね20〜25回位と考えて下さい。僕の場合は、平日は3日間で夜間のみ、土日祝日は昼間と夜間、本番1週間前からは「集中稽古」で毎日昼間と夜間というスケジュールでした。これで、一番安い稽古場で払った費用は、約6万〜8万でした。使用料の高いスタジオを使うと、20万位になってしまいます。まったく馬鹿にならない金額ですので、できるだけ安く使える場所と、団体登録に協力してくれる人を探しましょう。

 

物販グッズ製作費

例えば元アイドルの人が出演する等、物販ができそうな場合はチャレンジしてみるのもいいでしょう。

種類はいろいろありますが、主に以下のようなものが考えられます。

 

・ブロマイド

・チェキ

・パンフレット

・上演台本

・公演DVD

 

他に、オリジナルTシャツや缶バッジ等を売るところもあります。

物販で注意が必要なのは、「本当に需要があるのか?」をシビアに検討することです。それぞれのグッズには当然製作原価がかかりますが、作ったはいいけれどまったく売れなかったということも起きます。

チェキは人気ですが、本体とフィルム代が結構かかります。(これを書いている2021年1月現在は、コロナ対策でこうしたキャストとの対面販売のグッズは、劇場公演ではほぼ売られていません。)ブロマイドは、前に書いたスチール写真のギャラに入りますが、決められた枚数を印刷するためのお金は別途かかります。どのキャストが売れそうかを判断して、その人の種類を増やすといった調整を行います。

売価は、ブロマイドが2枚または3枚セットで500円、チェキはソロで1,000円、ツーショットで2,000円あたりが相場です。ここから、役者へのバックと原価を引いたものが、手元に残る利益ということになります。

因みに、チェキ本体は8,000円〜9,000円台、チェキのフィルムは20枚入りで1,500〜3,000円台です。チェキの撮影にあたっては、専属のスタッフを置く必要がありますので、その人件費も計算に入れておきましょう。

上記2つとパンフレットに関しては、出演者の中に一定数のファンを持っている人が複数いないと、製作する意味はありません。一般に芝居が好きで見にきているお客様や、知り合いに誘われて仕方なく(?)といったお客様は、決して物販は買わないものです。物販に払うのは「無駄な・不必要なお金」だと思っていらっしゃるのでしょう。逆に、推しがいるお客様は、物販に積極的にお金を落とすことが、推しの収入やステイタスの向上に繋がると思っていらっしゃるので、購買意欲満々の状態で劇場にいらっしゃいます。こうした固定ファンを持たない役者ばかりの座組の場合は、物販は考えない方がいいかも知れません。

上演台本は、製本しておけば出演者やスタッフにも渡せますので、無駄にはなりませんが、作成数に気を付けましょう。

DVDは、製作費がかなりかかります。業者にお願いすると、マスターDVD1枚製作するのに12万円近くかかります(撮影・編集はほぼお任せです)。デザインされたトールケースに入れてもらって30枚製作すると、そこにさらにパッケージ製作料が1枚につき750円、デザイン料が15,000円かかりますので、税抜37,500円が追加で必要になります。DVDの価格を3,500円(税抜)にすると、45枚売れないと元が取れない計算になります。

DVDや脚本は、チェキなどと違って、一般的な演劇ファンの方も購入されるケースもありますが、やはり基本的には物販=余計な支出と考える方が多いので、元が取れるほどは売れないことが多いです。

また、DVDも脚本も、最小ロット(製作数)が決まっていますので、売れる筈がない数を作らなくてはいけなくなる危険性もあります。

そして、チェキのところでも書きましたが、物販を行うに当たっては、物販専属の制作スタッフが必要になります。その方が受付がスムーズになり、結果的に売上が上がるのですが、当然人件費も余計にかかります。

 

 

如何でしたでしょうか。

稽古場代と物販は、チケット収入が入る前にお金がかかってくるものです。特に、稽古場代はなくてはならないものですので、稽古に入る前に、予め自己資金を持っておきましょう。脚本やチラシも同様です。20〜30万で何とかなるかどうかというレベルです。

物販は、最初から無理にやる必要はないと思います。思い入れたっぷりに作ったオリジナルTシャツや缶バッチなどは、余程芝居が面白かったか、デザインが素晴らしいものでない限りはまず売れないと思って下さい。

一方で、物販はチケット収入を補う大切な収入源にもなります。メンバーによっては、積極的に展開してみて下さい。

 

3回にわたってお金の話をしてきました。

頭が痛くなってきた人もいるのではないでしょうか。

「こんなにお金はかけられない」そう思って、諦めようとしている人もいそうです。

でも、最初は「初期投資」として、とにかく公演を行うために自己資金で赤字分を補填するのはやむを得ないと考えて下さい。

公演の規模が大きくなり、チケット料金も高く設定できるようになり、ファンがたくさんいる人気者に何人も出演してもらえるようになれば、物販の売上も上がり、何とか回せるようになります。

何より、次のあなたの作品を待っていてくれる、あなた自身のファンが増えれば、チケットが売れ、モチベーションも上がってどんどん公演ができるようになります。そうなる日のために、一つ一つ着実に実績を積み上げていきましょう。

 

お金に関することは、また思い出したら挟み込んでいくことにして、次回は「企画書の書き方」のお話に入りたいと思います。