たった1人で演劇創りを始める方法

劇団に所属せず、周りに仲間もいない状態から、自分だけの演劇作品を上演するまで

稽古開始までの間にやるべきこと

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皆さんこんにちは。劇作家・演出家の息吹肇です。

だいぶ間があいてしまいましたが、覚えていらっしゃいましたか?(笑)

前回まで3回にわたって、キャスト(出演者)やスタッフを集める方法を書いてきました。他にも方法はあると思いますが、ご紹介したやり方がポビュラーなものです。

 

こうして顔ぶれが揃ったら、いよいよ「顔合わせ」ということになります。顔合わせは、その名の通り、主に作品の出演者が顔を合わせる場です。各々のスケジュールの関係で、全員が揃わないこともしばしばですが、いよいよここからスタート!ということで、テンションも上がります。

今回は、この顔合わせまでの間に、やっておくべきことをご紹介しましょう。

 

 

稽古場を押さえる

出演者・スタッフが決まっても、稽古をする場所がなければどうにもなりません。前にも書きましたが、稽古日程を決めて、どこかの自治体で団体登録をして、公共施設を借りるか、民間のスタジオを予約しましょう。

最近の舞台は、2時間ものでも稽古の回数は20〜25回程度です。土日や、1週間前からの集中稽古期間は長い時間押さえ、その他の平日は夜のみといったスケジュールが一般的です。できるだけ皆が集まりやすい立地が望ましいですが、あまり贅沢を言ってもいられないのが実情です。むしろ、舞台の原寸が取れる広さを最優先し、次に料金を考慮して決めましょう。

 

 

キャスティングをし、出演者に伝える

顔合わせまでにやらなければならないことの筆頭が、このキャスティングです。出演者の顔ぶれが決まり、脚本も第1稿が上がっているのなら、どの人にどの役をやってもらうかを決めます。これは、とても大切な作業で、芝居が成功するか失敗するかの鍵でもあります。

オファーする時や、オーディションの過程で、1人1人の役者の特徴や個性、能力を大体掴んでいると思いますので、それを元にして役者を役に当てはめていきます。

個性が被ってしまったり、いいなと思ったけれども、該当する役が脚本になかったり、集まった役者の男女比が元の脚本と違っていたりということもまま起こります。その場合は、脚本の調整が必要になります。

また、出演者全体の顔ぶれを見渡しても、どうしても決めきれない役がある場合もあります。そんな時は、その役はペンディングにしておいて、顔合わせの日、またはその後の直近の稽古日に、プチオーディションをやって決めるというやり方もあります。

顔合わせ前に全ての役が決定したら、出演者にメール等で知らせます。顔合わせの1週間位前を目安に送れるといいでしょう。

 

 

脚本の微調整をする

上記のように、実際の出演者の顔ぶれを見た時に、それに合わせて脚本に手を入れたくなる時があります。

また、改めて読み直してみると、台詞が長いとか、余計と思われるシーンがあるとか、逆に説明不足で分かりにくいので足したいシーンや台詞が出てきたりします。2時間ものくらいになると、ある程度きちんと骨組みを作ってから書かないと、芝居の最初と最後で登場人物が矛盾した言動をしているといったことがでてきます(意図的な場合は問題ありません)。

ただ、整合性・完成度を重視するあまり、刈り込みすぎてしまい、最初にあった作品の勢いが削がれてしまうこともあります。デリケートな作業ですので、じっくり行って下さい。

出演者にデータを送信してから脚本を訂正した場合は、当然ですが、完成版を改めて出演者に渡しましょう。余程大きな手直しでない限り、顔合わせの日に手渡しでも大丈夫です。

もし、脚本を他の人に依頼している場合は、事前に修正部分を把握しておいた方がいいので、期日を切って手直しをしてもらうようにして下さい。

 

 

演出プランを作る

あなたが演出家を兼ねている場合は、この期間に、ざっとでもいいので、演出プランを作っておくことをお勧めします。

初めての場合、どう作ればいいのか途方に暮れてしまうかも知れません。演出プランの作り方は人それぞれです。登場人物に見立てた紙の人形を作り、それを動かしながら考える人もいますし、参考文献を集めて、それを読みながら作品を解釈しつつプランを練る人もいます。

自分で書いた脚本だったとしても、虚心坦懐に、初めて読む気持ちで改めて脚本を読み直すことが、全てのスタート地点です。そこで思い付いたことをノートやメモ帳に書いておき、それを参考にしながら、役者の動きや台詞の言い方、シーンとシーンの繋ぎ目の処理方法等を作っていくのが王道です。

実際に芝居を見ると分かりますが、頭のシーン(つかみ)とラストシーンの絵は非常に大切です。つかみでお客様を劇の世界にグッと引き込んでおかないと、その後にどんなにいいシーンがあっても、お客様は見て下さらないかも知れません。また、ラストシーンの絵は、劇全体の印象を決めるものです。(たとえバッドエンドであっても)いい後味や余韻が残るように工夫しないと、お客様は満足して下さらないのです。かといって、オープニングやエンディングが芝居全体の雰囲気から浮き上がりすぎても具合が悪いです。塩梅が難しいですが、この2箇所には特に力を入れましょう。

この段階での演出プランは、ガチガチに固めすぎないのがいいと思います。稽古場で実際に役者に動いてもらったり、実際の舞台装置の中に役者が立つことを想定したりすると、机上で考えていたことが実現しない場合があります。また、想像もしていなかった演技を役者が持ってくることもあります。そういうことに対応できるように、最初の演出プランはフレキシブルなものにしておきましょう。

演技や演出に「正解」はなく、より良いものを現場で探っていくのが、稽古をするということなのです。この点に関しては、稽古についてのところで改めて書きます。

 

 

各スタッフさんと打合せをする

顔合わせまでのこの時期に、打合せが可能がスタッフさんとは、直接お会いするなどして、打合せをしておきましょう。

例えば、舞台監督さんと舞台美術さんとは、実際にどんな舞台装置にするかを話し合い、舞台の図面(寸法が入ったもの)とエレベーション(舞台の見取り図)を作成してもらって下さい。顔合わせの初日に役者にこれを見せると、実際の稽古がスムーズに進みます。

制作さんとは、チケットの種類や料金、販売方法と発売日時、グッズの種類や値段等を確認します。当日の人員体制についても詰めておきましょう。

出演者のブロマイドやビジュアルの撮影も、可能であれば早めに行う方がよいので、スチールのカメラマンさんや衣裳さんとの打合せも必要になります。

そして、宣伝美術さんとは、どんなイメージのチラシや特設サイトのデザインにするかを詰めて、チラシ表面の画像データだけでも早めにもらって、ネットで公開しましょう。

チラシのデザインや役者のビジュアルは、作品のイメージを決定付けるものです。「面白そう」「見に行ってみたい」と思われなければ意味がありませんので、じっくり話し合って、妥協のないように決めて下さい。できるだけ分かりやすく、具体的にイメージを伝えるのがポイントです。

殺陣師さん、振付師さんがいる場合は、やはり顔合わせ前の打合せで、イメージを伝えたり、曲を渡したりした上で、どんなスケジュールで練習を入れるかを決めましょう。

テクニカルスタッフ(音響・照明・映像等)との打合せは、稽古が始まってからでも大丈夫です。特に音響さんと照明さんは、芝居がある程度固まらないとプランも立てられませんので、大体いつ頃に打合せをするかだけ決めておきましょう。

 

 

如何でしたか。

この他にも、稽古の準備として「香盤表」(各シーンの登場人物や小道具、消え物等が書かれた一覧表)を作成しておくといったことが考えられます。

演出助手がいたら、この作業や稽古場を押さえることは任せても大丈夫です。また、各スタッフとの打合せには、できる限り演出助手にも同席してもらいましょう。

準備は多岐にわたるので大変ですが、遠足の前夜のような楽しさやわくわく感もあります。それを大いに味わって、本当の戦いである稽古までに集中力を高めておいて下さい。

 

次回は、いよいよ実際の稽古に関して書きたいと思います。