稽古の進め方の実際
皆さんこんにちは。劇作家・演出家の息吹肇です。
だいぶ暖かくなって、春本番という感じになってきました。
このブログも、今回で18回目になりました。前回までで顔合わせという、実際に稽古の「入口」にあたるところまで書いてきました。ここまできたら、もう稽古あるのみです。
では、実際の稽古は、どう進められるのでしょうか。
団体や演出家によって、稽古の進め方や内容は千差万別です。どれが正しいということはありません。何人もの演出家についたり、いくつもの団体に客演したりする俳優は、それぞれの現場のやり方に適応する能力が求められます。稽古を主催する側も、試行錯誤をしながら、一番いいと思われるやり方を常に模索しつつ、自分なりのスタイルを作っているのです。ですから、ここで紹介するやり方は、あくまでも一例です。オーソドックスかつスタンダードと思われる、稽古のエッセンスと思って下さい。
1.テーブル稽古
「読み稽古」とも言われます。出演者が座って本の読み合わせをする稽古です。当然、動きはつけません。
この稽古の目的は、「脚本の読解」と「役の理解を深めること」です。
インプロ等を除く多くの場合、稽古は脚本に沿って進められます。役を演じる上でも、シーンを作り上げていく上でも、脚本に何が書かれているのか、テーマは何か、何をどう表現すべきかを理解することは、基本中の基本です。
稽古に入る前に、役者はある程度本を読み込んでおく必要があります。作品全体についても、自分の役についても、自分なりの解釈を持って、稽古に臨むべきです。いくら忙しいからといっても、顔合わせの時以来、1回も脚本を読まずに、真っ白な頭で読み合わせに参加するのは、役者として正しい態度とはいえません。演出家に何か言われるまで何もしない・考えないのは、思考停止であり、作品に対してもお客様に対しても不誠実であるといわれても仕方がないと思います。
こういう役者が存在すると、稽古が停滞してしまいます。本来の稽古のあり方は、役者が脚本を読み込み、演出家は独自に演出プランを立て、それを付き合わせて、ああでもない、こうでもないと作品の方向性を探っていくものです。あなたが演出家の場合は、役者から出てくるものを、すべて却下しないことをおすすめします。特にテーブル稽古の段階では、明らかな誤読や曲解でない限り、役者の意見も取り入れながら、でも自分自身の思いも大切にして、作品やシーンの方向性、役の造形を決めていきましょう。
2-①.立ち稽古(抜き稽古)
一通り脚本のシーンの読み稽古が終わったら、実際に立って動きながらシーンを作っていきます。これが「立ち稽古」です。劇場の広さやセットの大きさが具体的に決まっていたら、可能な限り原寸を稽古場でとって(床に養生テープ等で印を付けて=バミって)、その中で動くようにして下さい。
立ち稽古で最初にやるのは、「抜き稽古」と呼ばれるものです。これは、稽古参加者の顔ぶれや、シーンの重要度等に応じて、あるシーンだけを取り出して(抜いて)稽古するものです。抜き稽古の期間中に、台詞を覚えて脚本を離すように役者には指示しましょう。
脚本を手に持ったままだと、動きが制約されますし、小道具を扱うシーンの稽古では支障を来すことになります。
立ち稽古の中で、ミザンス(役者の立ち位置や動き)を決めていきます。これは、一度決めたら絶対に動かさないというものでもありません。通してやってみた時に、感情の流れや前後のシーンとの関係で変えることも普通にあります。
2-②.立ち稽古(粗通し稽古)
全てのシーンの演技とミザンスを付け終わったら、それを頭のシーンから最後まで通してやってみます。これが「粗通し」です。この段階までに、役者は台詞を完璧に入れておくように指示しましょう。
ダンスや殺陣がある場合は、この時までに形だけでもできあがっているのがベストです。それを含めて動いてみて、動きに矛盾点や無理がないかチェックします。衣裳の早替えがあれば、それが可能かどうかも確認しましょう。
シーン稽古で決めていた役者の出はけや物の出はけ、舞台裏の導線も確認して、修正が必要なところは、手直しをしていきます。
粗通しを行うことで、それまで繋がっていなかった各シーンが連結され、作品の大まかな姿が現れてきます。また、大体のランタイムも分かります。これを元に、もう一度シーンの抜き稽古に戻って、最良の形に練り上げていきます。
2-③.立ち稽古(通し稽古)
稽古期間の最後の1週間は「集中稽古」として、休みなしで昼・夜通しの稽古が組まれることが殆どです。
この段階で行われるのが、「通し稽古」です。小道具を持ったり衣裳を着けたり、メイクをしたりする場合もあります。
ここまでくると、仕上げの段階です。芝居のテンポ感はどうか、台詞は飛ばないか、衣裳のさばきは大丈夫か、殺陣の手やダンスの振りはきちんと入っているか、その他、不都合な点がないかどうかを確認します。
この段階で、テクニカルのスタッフさん(舞台監督・照明・音響)が見学にいらっしゃることも多いです。音響さんが音を流して下さったり、殺陣がある場合は、殺陣音のサンプラーを叩いたりして下さいます。
稽古終盤は、通し稽古を多めにやるようにしましょう。時間が許せば、1日2回やってもいいです。役者は、通し稽古で役の動きや感情の流れを身体に入れて覚えていきます。「次何だっけ?」となるのが、一番怖いのです。
通し稽古をやって、「だめ出し」で問題点を確認し、「かえし稽古」と言われるシーンのやり直しの稽古を行って修正します。そして、それを次の通し稽古で確認します。
このサイクルを何度か繰り返して、芝居を完成させるのです。
※スタッフさんと打合せ
粗通しや通し稽古をスタッフさんに見ていただいた後に、必ず打合せをしましょう。
照明さんなら、どこにどんな照明が必要かを知った上で、プランを立て、機材を手配します。音響さんには、どこからどこに、どんなBGMや効果音が必要なのかを伝えます。舞監さんは、総合的に見て、舞台美術も含めて改善点や問題点を指摘して下さいます。それが修正可能なのか、何らかの善後策・折衷案で何とかなるのか、それを最終的に判断するのも舞監さんです。
基本的にスタッフさんは、演出家の意図をくんで、それを最大限実現させようとして下さいます。ですので、ビジョンを明確に持ち、その具体化を各スタッフに任せるのが、演出家の役割だと思っておいて下さい。
如何でしたでしょうか。
稽古の大まかな流れを書いてみました。
先に書いたように、団体によって進め方は様々です。どのタイミングで通しをやるかとか、シーンの稽古の前に、敢えてシアターゲームのようなものを取り入れて、役者同士のコミュニケーションをとらせる等、いろいろありますが、ベースは上記にまとめたものです。
「どうしてもこういうことを稽古に取り入れたい」というものが特になければ、この流れに従って稽古を進めていって下さい。
次回は、稽古について、もう少し細かく見ていくことにしましょう。
次回も、どうどお読み下さい。
(写真 松永幸香)