たった1人で演劇創りを始める方法

劇団に所属せず、周りに仲間もいない状態から、自分だけの演劇作品を上演するまで

「顔合わせ」でやるべきこと

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皆さんこんにちは。劇作家・演出家の息吹肇です。

また随分ご無沙汰してしまいました。今、水面下でいろいろなことが進んでいまして、なかなかこのブログを更新する時間がありませんでした。しかし、楽しみにして下さっている方もいらっしゃるようですので、書き続けていきたいと思います。

 

前回は、顔合わせまでの間にやっておくべきことをまとめてみました。

今回は、いよいよ顔合わせについてです。とうとうここまできました。

新年度が始まり、新しい職場や学校・クラスで、心機一転、新たにスタートを切る、という方も多いでしょう。タイミング的には、いいお題だと思います。

 

 

顔合わせの席順

「顔合わせ」とは、文字通り出演者、スタッフ等、この作品を作り上げるメンバーが、初めて一堂に会する場です。時には、出演者である俳優のマネージャーさんもいらっしゃいます。また、小劇場の場合は、多くのスタッフさんは普通は顔合わせに出席しません。(別の現場を抱えていらっしゃる場合が殆どだからです。)

顔合わせは、稽古場として使用するスタジオや会議室、公共施設等で行います。この時、出演者にどんな順番で座ってもらうかが、実は問題だったりします。演出家や作家、そして主催者(この3つを1人が掛け持ちしている場合が殆どだと思いますが)が一番奥の中央に座るのはいいとして、問題は俳優の並び順です。小劇場では割といい加減になっていますが、芸能界というところは、とりわけこうした「席順」に厳密な世界です。

普通は、キャリアの長い順番に、上座から席を作っていきます。役の重さと、キャリアの間には大抵相関関係がありますが、たまに、キャリアの浅い人が主役やメインどころに抜擢されたりすると、この順番が微妙に狂います。自分が相応に遇されていないと思うと、人は「ああ、自分はこの現場ではこの程度に見られているのか」と不機嫌になり、モチベーションが下がるものです。それはその後の稽古にまで響く可能性が高いので、特に注意が必要です。

スタッフさんがいらっしゃっている場合は、主催者や作家・演出家と同じ、または並びのテーブルに座っていただきましょう。

 

顔合わせでやるべきこと

①自己紹介

顔合わせで初めて実際に出会う人達も多いでしょう。1人ずつ、簡単に自己紹介をしていただきます。主催者は、挨拶を兼ねた自己紹介を、最初にするといいと思います。

 

②稽古の進め方やスケジュール等の説明

業務連絡のような内容ですね。

まず、稽古全体の日程・時間や場所を一覧にして紙なりデータなりで渡しましょう。(顔合わせまでの期間でできれば、先にやっておきます。)

カンパニーによって、稽古の進め方は違います。稽古の方針を最初に明示しておくといいでしょう。読み稽古をじっくりやる場合もあれば、すぐに動いてみるというやり方をするカンパニーもあります。中には、脚本は前半だけできていて、後は稽古をしながら同時並行で書いていくという主宰さんもいます。

どれが正解というわけではありません。今までの経験を生かして、また思うところに従って、あなたなりの稽古の進め方を決めて、発表して下さい。勿論、稽古をやりながら軌道修正をはかることもできます。

また、稽古全体の大体のスケジュール感を示すことも大切です。2週間で全てのシーンを最低1回は稽古をし、その直後に粗通し(全てのシーンを最初から順番に通す)を行う、集中稽古期間中のどこで通し稽古をするか等々です。役者は、他に仕事を持っている人が殆どですから、「この日とこの日だけは開けて欲しい」という日を、早い段階で教えてあげるのが親切です。

また、エンタメ系の舞台で、ダンスや殺陣、歌唱といった、シーン稽古とは別の稽古が必要になるものも、合わせて大体の日程を伝えておきましょう。

劇場に入ってからのスケジュールは、舞監さんと話し合って決めますので、この段階では発表しなくても大丈夫です。(概略が分かっていれば、軽く伝えておくのもいいと思います。)

稽古するにあたっての、カンパニーとしての「ルール」のようなものがあれば、ここでしっかりと伝えておきます。

そして、使用する稽古場(施設)自体の注意事項(例えば、「全面禁煙」)も忘れずに伝えましょう。

上記のことは、顔合わせを欠席した人にも確実に伝わるように、例えばLINEのグループを作って、ノートで共有する等して、「えっ、私それ知らない」という人がいないようにして下さい。

 

※コロナ対策について

新型コロナの感染が収まっていない現状では、稽古場でのコロナ対策について説明しておく必要があります。公的機関や劇場等からいくつかのガイドラインが出ていますので、それに従ったものを予め作成しておいて、説明するといいでしょう。

実際に、稽古場でクラスターが発生する事案がいくつもありました。用心の上にも用心を重ねて、消毒液や検温器等を用意し、定期的に換気を行う等、安心して稽古ができるように、対策には万全を期して下さい。

 

③本読み

出演者全員に脚本を渡したら、いよいよ実際に役に分かれて読んでもらいましょう。この本読みで、役者も脚本家・演出家も、作品の大体の雰囲気を掴みます。勿論、そこから実際の稽古で練って、最適な形を探っていくわけですが、そのベースになる第一印象が全員に伝わる、非常に大切な時間です。

 

※作者本読み

僕はやりませんが、野田MAPの野田秀樹さんは、顔合わせの時に、「作者本読み」ということをするそうです。文字通り、作者である野田さんが、俳優やスタッフの前でお1人で脚本を最初から最後まで読むのです。

野田MAPでは、演出も野田さんがやりますので、ご本人による本読みを聞けば、それぞれの役をどのようなイメージで演じていけばいいのか、各シーンはどのようなテンポなのかといったニュアンスが、役者にダイレクトに伝わります。役者は、それを手がかりに、各々役作りをしていくことになります。

野田さんは俳優でもありますので、こういう芸当ができるのでしょう。

もしご自身の表現力に自信があったら、または、どうしても作品のイメージを直接的に伝えたいと思ったら、やってみてもいいと思います。

 

④作品全体の概略や主題等を伝える

出演者全員(または大部分)が顔を合わせる機会というのは、稽古の進め方にもよりますが、この先そうそうありません。この機会に、作品を通して、お客様に何を伝えたいのか、どんなことに注意し、どこに重点を置いて稽古を行っていけばいいのかを、あなたの口から、あなた自身の言葉で全体に伝えましょう。

役者やスタッフの作品作りの重要な原動力の1つは、主催者の「情熱」や「思い」です。出演者やスタッフが「よし、面白いものを作るぞ!」という前向きな気持ちが持てるように、1人1に語りかけるつもりで話して下さい。

 

 

ここまでの話が終わったら、質問を受け付け、一通り疑問点、確認すべき点が出て、それらに回答したら、顔合わせは終了です。

コロナ以前は、この後に「決起会」という名の親睦会(飲み会)を開催する団体・座組みも多かったのですが、このご時世、ある程度の大人数で飲み屋に繰り出すのは、自分達でわざわざ感染の危険性を高めるような行為ですので、避けた方が無難でしょう。親睦は、稽古場で少しずつ、密を避けてはかるようにして下さい。

 

 

如何でしたでしょうか。

初めて関係者が一堂に会してどんなことをするのかお分かりいただけたかと思います。

稽古の仕方が様々であるように、顔合わせのやり方も様々、それこそ団体・座組みの数だけあると思います。しかし、上記のことを踏まえておけば、最低限するべき「顔合わせ」の内容は網羅できると思います。

いろいろな人と初対面で緊張すると思いますが、それはおそらく相手も同じです。主催者であるあなたが音頭を取って、明るく前向きで、次の稽古に繋がるような雰囲気の顔合わせにして下さい。

 

次回は、稽古の進め方の実際について書く予定です。

次回もどうぞお読み下さい。